研究課題/領域番号 |
25291021
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中西 義信 金沢大学, 薬学系, 教授 (40172358)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細菌感染症 / 宿主と病原体の相互作用 / ショウジョウバエ / 二成分制御系 |
研究実績の概要 |
細菌の“折合い遺伝子”の同定と機能解析
1. 折合い遺伝子ompCの発見 感染時の宿主と細菌との共存を導く役割を担う、細菌の折合い遺伝子の同定に取り組んだ。25年度の研究において、大腸菌の二成分制御系のひとつであるEnvZ-OmpRを欠損させると、菌の宿主(ショウジョウバエ)に対する病原性が増大することが見いだされた。二成分制御系は遺伝子発現調節を担うため、26年度ではEnvZ-OmpRの働きで発現変動する遺伝子の同定を目的とする研究が行われた。既知の標的遺伝子について、その欠損がEnvZ-OmpR欠損と同じ表現型を与えるものを探した。その結果、大腸菌の外膜タンパク質OmpCをコードするompC遺伝子が見いだされた。ompCは、感染時に菌の病原性を抑制し、菌と宿主との間で折り合いをつける遺伝子であると結論された。 2. 宿主免疫細胞と細菌による相互の遺伝子発現変動 感染時に細菌が宿主免疫系による感知を受ける際に、宿主側だけでなく細菌側にも遺伝子発現変動につながる刺激が伝わる可能性が検証された。25年度の研究において、大腸菌を宿主の免疫タンパク質にさらすと、400種類近くの遺伝子の発現が増加または減少することがわかった。26年度では、大腸菌感知に働くショウジョウバエの免疫タンパク質であるPGRP-LCによって発現増大を受ける遺伝子を探索した。その結果、宿主内でPGRP-LCに依存して発現が増加する、大腸菌のリポタンパク質をコードするnlpI遺伝子が見いだされた。この遺伝子は、ショウジョウバエ内で一過性に発現増大し、大腸菌の持続性維持に働くと考えられた。以上により、当初の仮説が支持され、宿主と細菌の間での相互の遺伝子発現変動という仕組みが存在することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である“宿主との折り合いをつける細菌遺伝子”の有力候補ompCが見いだされたことが、「おおむね順調」とした理由である。OmpCが大腸菌に病原性低下と持続性維持を与える仕組みを解明することが、次年度の目標となる。
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今後の研究の推進方策 |
OmpCが宿主と大腸菌との間で折り合いをつける仕組みの解明
1. OmpCの宿主免疫への影響:OmpC欠損菌と野生型菌をそれぞれショウジョウバエに感染させ、抗菌ペプチドmRNAの量と菌の貪食程度を測定する。これにより、OmpCが液性免疫と細胞性免疫に影響するかどうかが判明する。 2. OmpCによる感染時持続性の調節:OmpC欠損菌は病原性増加と同時に感染時持続性の低下を与える(26年度の成果)。この、一見、相反する二つの性質が折合い遺伝子としての働きに必要であるかどうかを調べる。 3. EnvZ-OmpRによるompC発現誘導の仕組み:感染前後でのEnvZとOmpRのmRNA量およびOmpRの活性化程度を測定する。これにより、EnvZ-OmpRが量的あるいは質的に変化してompC発現を誘導するのかがわかる。 4. 研究全体のまとめ:細菌の“折合い遺伝子”を調べた本研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展状況の都合により、実験動物(キイロショウジョウバエ)のいくつかの種類について使用する必要がなくなった。それに伴って、飼育に要する物品の購入費が低くおさまった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の実験動物を次年度に飼育して実験に供する。
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