研究課題/領域番号 |
25291024
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
澤田 均 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60158946)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 受精 / 精子 / プロテアソーム / ユビキチン |
研究実績の概要 |
(研究目的) ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)は細胞の機能維持に不可欠なタンパク質分解経路であるが、細胞外での機能は知られていない。本申請者は、マボヤ精子UPSが精子の卵外被通過に卵黄膜ライシンとして細胞外で機能することを見出した。本研究では、受精に関与する細胞外UPSの構造的・機能的特徴と細胞外への輸送機構に関する知見を得ることを目的としている。 (研究成果) (1)精子ユビキチン活性化酵素E1の同定:当初マボヤ精子からユビキチン化酵素複合体を精製することを試みたが、含有量が低いため困難であると判断した。そこでマボヤゲノムからE1を探索し、2種の酵素(UBA1, UBA6)を同定した。両酵素は共に精巣と卵巣で発現していることが示された。抗体を用いた免疫染色の結果、精子ではミトコンドリア近傍が、また卵では濾胞細胞に局在することが示された。E1インヒビターはマボヤの受精を阻害することが判明し、確かに受精にユビキチン化酵素が関わることが示された。 (2)精子プロテアソームの構造特性:マボヤ精子プロテアソームでは、α6サブユニット特異的にプロセシングがおこることを報告しているが、このプロセシングが細胞外輸送に関わる可能性が示された。今後その追試実験等を行い、輸送機構に関する手がかりを得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)精子ユビキチン活性化酵素E1の同定:当初マボヤ精子からユビキチン化酵素複合体を精製することを試みたが、含有量が低いため困難であると判断した。そこでマボヤゲノムからE1を探索し、2種の酵素(UBA1, UBA6)を同定することに成功した。両酵素の発現や局在性に関する予備実験は終了しており、進展が見られる。また、E1インヒビターがマボヤの受精を阻害することが判明し、ユビキチン化酵素の受精への関与が新たに示された点は新展開である。一方で、東日本大震災の影響もあり、マボヤを漁師から大量に購入し、陸路で東北大学浅虫臨海実験所に輸送して大量飼育するという従来の方法が困難となり、それに伴う研究の遅れも見られる、 (2)精子プロテアソームの構造特性:マボヤ精子プロテアソームα6サブユニットのプロセシングがプロテアソームの細胞外輸送に関与する可能性を検討した。当初想定していた通り、細胞外に存在するプロエアソームはプロセシングされていることが示唆された。しかし、それが原因なのか結果なのかも不明であり、細胞外輸送に関わる根拠も乏しい。また、相互作用タンパク質の解析は遅れている。その意味で、必ずしも順調に進んでいるとは言えないが、一つの輸送シグナルになっている可能性が示された点は評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)精子プロテアソーム特異的プロセシングとその意義:プロテアソームα6サブユニットのプロセシングの有無によって局在性が異なるか否かを詳細に解析する。具体的には、α6のC末端ペプチドとプロセシング後に出現するC末端ペプチドを合成し、それらに対するペプチド抗体を作製する。そして、それらの抗体を用いて局在性解析を行なう。特に、精子を、細胞膜透過処理を行った場合と行わない場合とで差があるか否かを解析し、細胞膜表面に露出しているプロテアソームと細胞内プロテアソームにおいてC末端の構造的違いがあるか否かを詳細に解析する。また、プロセシングされたプロテアソームに特異的に結合する因子を精子中から探索し、プロテアソームを精子細胞膜にアンカリングさせる機構の手がかりをつかむ。 (2)精子細胞外ユビキチン化酵素複合体の探索と機能解析:2種類のユビキチン活性化酵素(UBA1, UBA6)のクローニングを行い、構造を確定する。また、プロセシングの有無、受精への関わりを解析する。さらに、この抗体を用いて、UBA1やUBA6と相互作用するタンパク質をLC/MS/MS解析により同定し、細胞外で機能するユビキチン化酵素複合体の構成サブユニットを探る。 (3)精子プロテアソームアクティベーターPA200の同定と機能解析:哺乳類では、PA200の遺伝子を破壊すると精子形成異常がおこり雄性不稔になると報告されている。しかし、その詳細は不明であり、ホヤにPA200が存在するか否かも不明である。そこで本研究では、PA200のcDNAクローニングを行う。またその特異的抗体を用いた阻害実験や、カタユウレイボヤの系を利用したゲノム編集による遺伝子破壊実験も試みる。これらの解析を通して、PA200の受精における機能を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
東日本大震災の影響で東北の女川湾で養殖されていたマボヤが壊滅的被害をうけたが、その後養殖が開始され今年度は生殖可能な成体に成長した。震災前は、女川湾で養殖されたマボヤを大量に購入し、東北大学浅虫臨海実験所に陸路輸送して実験所で飼育しながら、マボヤの精子と卵の大量採集を行っていた。その大量調製には学生4人とともに浅虫臨海実験所に出張する必要があり、その旅費として50万円を計上していたが、漁師からの購入や陸路輸送が困難となり、当初予定していた実験が行えなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に行えなかったマボヤ配偶子の大量調製実験を平成27年度に行う。そのための出張旅費として50万円を使用する。また、平成27年度は受精のゴードン会議が米国で開催されるので、その成果発表旅費として残りの予算を使用する予定である。
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