研究課題
基盤研究(B)
①インテグリンα9を発現するヒト横紋筋肉腫細胞RDを用い、polydom活性フラグメント(pol-C)上での細胞増殖応答を解析した。5xHisタグを付加したpol-C上ではRD細胞の増殖が抑制されたが、FLAGタグを付加して精製したpol-C上では増殖が抑制されず、軽微な亢進が認められた。異なるタグで精製したpol-Cの純度をSDSゲル電気泳動により確認したところ、5xHisタグで精製した標品にはpol-C以外のバンドが複数検出され、このpol-C上でのRD細胞の増殖抑制はこれら夾雑物による可能性が高いと判断された。インテグリンα9β1のリガンドであるEMILIN-1上では細胞増殖が抑制されるとの報告がある(Danussi et al JCB, 2011)。EMILIN-1のα9β1結合フラグメントを調製してRD細胞の増殖を検討した結果、予想に反して増殖阻害は観察されず、インテグリンα9β1リガンドが細胞増殖を抑制する可能性は低いと考えられた。②骨髄間葉系幹細胞がpolydomを発現していることに着目し、間葉系幹細胞の機能維持におけるpoldomの関与を検討した。野生型マウス胎児より分離した線維芽細胞は、コロニー形成能、脂肪細胞および骨細胞分化能をもち、間葉系幹細胞として性質を示す。一方、polydom欠失マウス胎児より分離した線維芽細胞では、これらの活性が有意に低下していることを見いだした。③polydom欠失マウスは重度の浮腫を呈し、出生直後に死亡する。当該マウスのリンパ管の発生過程を解析し、初期リンパ叢は形成されるものの、集合リンパ管への成熟がみられないことを見いだした。一方、インテグリンα9欠失マウスでは集合リンパ管が形成されており、polydom欠失マウスの表現型はインテグリンα9β1リガンドとしての活性では説明されないことがわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初想定していたpolydomの増殖抑制活性は確認できなかったが、その一方でpolydomが間葉系幹細胞の機能維持に関与する可能性が浮上し、polydomの新たな生理機能の解明の糸口をつかむことができた。polydomは心臓や骨髄の幹細胞の周囲に発現することから、幹細胞ニッチとして機能する可能性がある。今後、骨髄幹細胞を含む様々な間葉系幹細胞の機能維持にpolydomがどのように関わるかを詳細に検討する予定である。また、もう一つの柱であるpolydom欠失マウスの表現型の解析は順調に進展している。今後、リンパ管の形成および成熟におけるpolydomの役割の解明が進むものと期待される。
我々が作製したpolydom欠失マウスを利用して、引き続きpolydomの生理機能の解明を目指す。具体的には、(1)間葉系幹細胞ニッチとしての機能、(2)リンパ管形成のおける機能を中心に、細胞レベルおよび組織・個体レベルで解析を進める。また、ライブイメージングが容易なゼブラフィッシュのpolydom欠失変異体を作製し、polydomノックアウトマウスと表現型を比較しながら、polydomの機能解明を目指す。なお、polydomはインテグリンα9β1と強く結合するが、その複雑かつ長大なドメイン構造からそれ以外の生理活性をもつことが容易に推定される。我々はインテグリンα9欠失マウスの作製を完了しており、polydom欠失マウスとインテグリンα9欠失マウスの表現型を比較することにより、インテグリンα9β1リガンドとしての機能とそれ以外の機能を区別しながら、polydomの未知の機能の解明を目指す。
2013年7月~10月の間のマウスの産児数が減少し、解析に使用するpolydomノックアウトマウスが十分に得られなかったため、組織レベルの解析が予定よりも遅延した。なお、マウス飼育施設の湿度管理が改善されたこともあり、現在では交配による産児は順調に得られている。マウスの産児数が安定したことにより、今年度は順調にpolydomノックアウトマウスの解析が進むと想定している。それに伴って組織レベル・細胞レベルの解析が進むため、繰越額を含めて本年度予算を予定通り執行できる見込みである。なお、研究の遅れを取り戻すため、2014年4月および5月の2ヶ月間、本課題に従事する特任研究員の採用を予定している。
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