研究課題
①polydomコンディショナルノックアウトマウスの骨髄から分離した間葉系幹細胞(MSCs)を用いて、MSCsの増殖および幹細胞性維持におけるpolydomの役割を検討した。具体的には、分離したMSCsをタモキシフェン処理してpolydomの発現を抑制し、MSCsの増殖および多分化能がどのように影響を受けるかを検討した。対照マウスから分離したMSCsでは、タモキシフェン処理により増殖が微増したが、polydomコンディショナルノックアウトマウスから分離したMSCsでは著明な増殖の遅延が観察された。MSCs様の性質を示すことが知られている胎児線維芽細胞を同コンディショナルノックアウトマウスから分離した場合にも同様の増殖遅延が観察されたことから、polydomはMSCsの増殖を正に制御すると考えられる。一方、MSCsの多分化能に関してはタモキシフェン処理による有意な変化は観察されなかった。②polydomはリンパ管周囲に局在することから、polydom発現細胞はリンパ管周囲に存在すると考えられる。この点を確認するため、polydomプロモーターの下流にβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を導入したマウスを利用してpolydom発現細胞を可視化した。胎生15.5日のマウス胎児皮膚では真皮層にpolydom発現細胞が散在しており、特にリンパ管周囲に局在する傾向は認められなかった。一方、polydomプロモーター下でmCherryを発現するゼブラフィッシュを作製して、polydom発現細胞を可視化したところ、血管の周囲に局在する傾向が認められた。これらの結果は動物種によってpolydom発現細胞の存在部位に差異があるものの、polydomは間葉系細胞により分泌され、近傍のリンパ管の周囲で不溶化されると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
①細胞増殖におけるpolydomの機能解明に関しては、当初の予想を超えた新たな進展が見られた。研究を開始した当初はpolydomが細胞増殖を負に制御すると想定していたが、これまでに得られた結果はpolydomが間葉系幹細胞(MSCs)の増殖を正に制御することを示している。この結果はMSCsを高発現するMSCsモデル細胞OP9およびpolydom欠失マウスの骨髄から分離したMSCsの両方で得られており、信ぴょう性が高い。MSCsがpolydomを高発現することを勘案すると、polydomはMSCsの増殖を正に制御するオートクライン因子である可能性が高い。MSCsは再生医療での利用が注目されており、polydomによるMSCsの増殖制御機構の解明は医療用MSCsの新たな培養法の開発につながることが期待される。②polydomノックアウトマウスの解析に関しても順調に表現型の解析が進んでいる。これまでの解析結果からpolydomがリンパ管の成熟過程に関わることが明らかとなっているが、polydomの発現を阻害したゼブラフィッシュの解析でもこれを支持する結果が得られている。また、マウスおよびゼブラフィッシュにおいてpolydom発現細胞を可視化することに成功し、間葉系細胞がpolydomを産生することが明らかとなった。現在、これらの結果をまとめた論文をAmerican Heart Associationが刊行するCirculation Research誌に投稿し、改訂作業が進行中である。
polydomによるMSCsの増殖制御の分子機構の解明およびリンパ管形成におけるpolydomの作用機序の解明が今後の最重要課題である。polydomは細胞外に分泌される細胞外因子であるため、polydomの作用機序としては以下の二つの可能性が考えられる。第一は、MSCsの表面にpolydom受容体が存在し、この受容体を介してpolydomから増殖を正に制御するシグナルが伝達されるという可能性。第2は、polydomが細胞増殖因子あるいはリンパ管形成を制御する液性因子と結合し、それらの活性や局在部位を制御するという可能性である。この両方の可能性について、今後検討を進める予定である。
ノックアウトマウスを用いる解析に時間がかかり、本課題の研究成果を取りまとめるためには研究期間を延長して実験を継続する必要が生じたため。
・ノックアウトマウスの表現型の解析・polydom発現抑制ゼブラフィッシュの解析・polydomと結合する分子の探索
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Nature
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doi: 10.1038/nature17000
The Journal of Biological Chemisry
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