研究課題/領域番号 |
25291027
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤田 雅俊 九州大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (30270713)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | GRWD1 / ヒストンシャペロン / Pura / 転写 / EDDユビキチンリガーゼ / 核小体ストレス / RP / p53 |
研究実績の概要 |
(1)転写因子Puraの機能・制御へのGRWD1の関与の解明 これまでに、① GRWD1/PuraをsiRNAで抑制すると、DNAダメージ時にp21発現誘導が促進されること、② GRWD1/Pura の過剰発現がp53による転写活性化を抑制すること、等が明らかとなっていた。そこで、GRWD1のp53反応性プロモーター部位への結合をChIP法で解析しようとしたが、バックグラウンドシグナルが強く、抗GRWD1を使用した解析が上手くいっていない。一方、Puraに関しては、当該プロモーターへの結合を観察することができた。加えて、GRWD1の過剰発現が細胞においてp53応答経路を抑制することが明らかとなった。これは、p53転写能の抑制に加えて、下述する核小体ストレス応答経路の抑制の結果だと考えている。さらに、GRWD1とHPV E7、活性型RASの共発現により、ヒト正常線維芽細胞ががん化することも明らかとなった。また、GRWD1の過剰発現はがん患者において予後不良の予測因子となり得る可能性も示唆された。
(2)ユビキチンリガーゼEDDの機能・制御へのGRWD1の関与の解明 GRWD1はEDDユビキチンリガーゼおよび核小体蛋白質RPL23と結合している。RPL23はMDM2ユビキチンリガーゼに結合しその活性を抑制することでp53を誘導し、核小体ストレス応答を正に制御していると考えられている。そこで、EDD-GRWD1がユビキチンリガーゼとしてRPL23の量的制御を行っているという作業仮説で検討を行っている。昨年度までの解析で、①GRWD1およびEDDの共発現で相乗的なRPL23減少が見られること、③RPL23は細胞内でユビキチン化を受けており、そのユビキチン化がGRWD1およびEDDの過剰発現で増加すること、等が明らかとなっていた。本年度は、①精製EDDに組換えGRWD1を加えることで、試験管内でRPL23ユビキチン化を誘導できること、②RPL23過剰発現によるMDM2活性の抑制を、GRWD1過剰発現は部分的に打ち消すことができること、などを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的に、概ね順調に進んでいると考えている。まず、「転写因子Puraの機能・制御へのGRWD1の関与の解明」については、上述のようにp53の転写能に対してGRWD1がPuraと共に抑制的に働き得るという極めて興味深い結果を得ており、さらに研究を進めている。次に、「ユビキチンリガーゼEDDの機能・制御へのGRWD1の関与の解明」についてであるが、EDD-GRWD1がユビキチンリガーゼとしてRPL23の量的制御を行っているということが明らかとなりつつある。RPL23はp53制御に関与する可能性が指摘されており、そのRPL23量の制御機構の解明は重要であろう。これら二つの新たなGRWD1の機能は、いずれもp53機能の抑制に結びつく。その結果として、GRWD1の過剰発現によるp53応答経路の抑制とがん化能促進が起こると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)転写因子Puraの機能・制御へのGRWD1の関与の解明 上記の結果を踏まえ、最終年度は、以下の検討を行う。①当該p53反応性プロモーターへのGRWD1、Puraの結合をChIP法で調べる。昨年度にPura結合は証明されたが、残念なことに当該細胞で当該部位では内因性GRWD1の特異的ChIPシグナルが得られなかった。そこで、FLAGタグ付きGRWD1発現細胞を樹立し、抗FLAG抗体を用いた解析を行なう。この系を用いて、GRWD1結合へのp53の関与を調べる。逆に、p53結合にGRWD1やPuraの過剰発現が影響を与えていないか調べる。②併せて、当該領域クロマチンopennessへのGRWD1、Puraの影響をFAIRE-qPCRやヒストンChIP-qPCR法で調べる。④ p53、GRWD1、Pura間の物理的相互作用を減弱させるそれぞれの変異体の同定を試み、それらの当該反応への影響を調べる。 (2)GRWD1とEDDの核小体機能制御への関与の検討 上記のように、GRWD1はRPL23のユビキチン/プロテアソーム系を介した分解を促進的に制御している可能性が示されつつある。最終年度は以下の検討を行う。①現時点での仮説は、EDD-GRWD1がRPL23ユビキチンリガーゼとして働いていると言うものである。そこで、過剰発現とsiRNAによる抑制を組み合わせ、RPL23のユビキチン化や分解を指標に、この仮説の妥当性を検証する。今年度は、EDD過剰発現によるRPL23分解が、GRWD1抑制で阻害されるかを明らかにしたい。②細胞からEDD-GRWD1ユビキチンリガーゼを精製し、試験管内でRPL23をユビキチン化できるのかを明らかにする。細胞から精製したEDDに組換えGRWD1を加えると、RPL23のユビキチン化が起きることが明らかとなりつつある。③ GRWD1によるRPL23分解の生物学的意味の解明。RPL23はMDM2ユビキチンリガーゼの活性を抑制制御していると考えられている。よって、GRWD1がRPL23抑制を介して、MDM2活性を制御している可能性を更に詳細に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述したように、GRWD1のp53反応性プロモーターにおけるChIP解析でのトラブルなど(高いバックグラウンドシグナルの為に特異的シグナルを検出できない)、一部の研究が多少遅れている部分がある。そのため、その後の解析の一部が平成28年度にずれ込んだ。
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次年度使用額の使用計画 |
これについては、上述した今後の研究方針に従い、平成28年度の研究費と併せ、研究の邁進のために適切に執行して行きたい。最終的には全てのデータを併せて、いくつかの論文発表を行ないたい。
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