研究課題/領域番号 |
25291028
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
古川 良明 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (40415287)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 金属タンパク質 |
研究実績の概要 |
銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)は、銅・亜鉛イオンを結合し、分子内にジスルフィド(S-S)結合を形成することで活性化する抗酸化酵素である。本年度は、SOD1に銅イオンを供給し、分子内S-S結合を導入することができる銅シャペロンCCSに着目して、その制御メカニズムに関する研究を進めた。 CCSは三つのドメインから構成されており、中央に位置するドメイン2(CCS-dII)がSOD1の認識に重要であることが示唆されている。興味深いことに、CCS-dIIはSOD1と類似した構造を有しており、亜鉛イオンの結合サイトと分子内S-S結合についても保存されている。SOD1では、亜鉛イオン結合やS-S結合形成によって四次構造が変化することから、CCS-dIIへの亜鉛イオン結合やS-S結合形成によってSOD1の認識が制御されているのではないかと考えた。 そこで、プルダウン法を利用することで、亜鉛イオン結合やS-S結合形成がCCS-dII/SOD1間の相互作用に及ぼす影響を検討したところ、CCSがSOD1を認識するためには、CCS-dIIへの亜鉛イオン結合が必須であることが分かった。実際、FT-IRを用いることで、亜鉛イオン結合に伴い、CCS-dIIにalpha-helixの構造形成が誘起されることを見いだした。さらに、CCS-dIIへの分子内S-S結合形成によって、亜鉛イオンの解離が抑制されることが分かった。細胞内では、遊離の亜鉛イオンは殆ど存在しないと考えられていることから、酸素分子を電子アクセプターとしたCCS-dIIへの分子内S-S結合形成がSOD1の認識に必要ではないかと考えられる。つまり、酸素分子をシグナルとすることでCCSによるSOD1の認識が制御されていることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は、酸素分子が銅シャペロンシステムの稼働シグナルとして機能していることを明らかにすることである。昨年度に引き続き、銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)に着目し、その活性化メカニズムに焦点を当てて研究を進めているが、本年度は、SOD1に対する銅シャペロンであるCCSが酸素分子をシグナルとしてSOD1を認識している可能性を見いだすことができた。特に、CCSにおける亜鉛イオン結合と分子内ジスルフィド結合形成が、細胞内にてSOD1を認識するために必要であることを示唆する結果が得られた。酸素分子により制御されたSOD1-CCS間分子認識のメカニズムについて、詳細に検討中であるが、投稿論文として準備段階にあり、本研究は概ね順調に進められていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
SOD1がCCSによって認識されるためには酸素分子が必要であることが示唆された。そこで、本課題の最終年度となる平成27年度には、出芽酵母をモデルとすることで、生体内でのSOD1活性化に酸素分子が必要であることを検討し、特に、CCS-dIIへのジスルフィド結合形成がSOD1活性化に必要であることを明らかにしたい。そのために、嫌気条件としたグローブボックス内において出芽酵母を培養し、当初の計画通り、SOD1活性やジスルフィド結合形成について、電気泳動法を駆使することで確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
SOD1とCCSとの相互作用について検討するために、多角度光散乱検出器を購入する必要が生じたため、本年度に購入する予定であったグローブボックスを次年度に購入することとした。いずれの機器・装置についても、本課題の遂行には必要であるが、グローブボックスを使用した実験については、次年度に予定しているため、研究の推進には大きな影響は生じない。
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次年度使用額の使用計画 |
グローブボックスなどの設備備品の購入に充て、当初の計画通り消耗品費とともに使用を計画しており、速やかに本課題に記載の実験・研究を遂行する予定である。
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