研究課題/領域番号 |
25291031
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
豊島 陽子 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (40158043)
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研究分担者 |
矢島 潤一郎 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00453499)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞質ダイニン / 微小管 / 1分子運動観察 / 電子顕微鏡観察 / スタック構造 / 自己制御機構 / ラチェット機構 / キャッチ機構 |
研究概要 |
細胞質ダイニンの運動メカニズムに関しては、出芽酵母のダイニンを用いた研究から多くの知見が得られてきたが、哺乳類のダイニンを用いた観察においては、様々なグループから酵母ダイニンの振舞い、また細胞内におけるダイニンの運動と質的に異なったものであるという混乱が生じている。具体的には、微小管上での振舞いとして一方向に運動するという報告と両方向に運動するという報告が混在しており、運動速度についても細胞内で見られている輸送速度との間に齟齬を生じている。これらの混乱を解消し、またダイニンの一分子の運動を明確に特徴づけることで細胞内での多様な役割の詳細な機構の理解の基礎を築くことを目指し、組換え細胞質ダイニンを用いた研究を行った。 HEK293細胞を用いて細胞質ダイニンの組換え体を作製し、運動観察および形態観察を行ったところ、ダイニンにはある種の自己制御機構が存在していることが明らかになった。すなわち、単独で存在しているダイニン分子においては、2つの頭部ドメインが積み重なったような"スタック構造"が形成されており、この構造においてダイニンは自己阻害的に弱結合状態を安定化させ、微小管上を拡散的に運動するということが示された。さらに、ダイニンにはキネシンなどと異なる力学応答性が備わっていることも分かった。具体的には、弱結合状態にあるダイニンに外力が加えられると、強結合に遷移する確立が上昇するというキャッチ機構的な性質や、力が及ぼされる向きによって結合力を変化させるラチェット的な性質を持っていることが明らかとなった。このような力学応答性を備えていることによって、多分子化などに伴う外力によって力学的摂動が加えられると強結合状態が誘起されるのに伴って自己阻害状態が解除され、また後方への拡散が抑えられることで、細胞内で見られているような安定した輸送が達成されるという描像を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞質ダイニンが2つの頭部を重ねたスタック構造が、微小管上を拡散的に運動する自己阻害状態であることを新たに見出した。また、力学計測の結果、ダイニンモータードメインには、高い負荷によって強い結合を維持するキャッチ機構や、負荷の向きによって結合力を変化させるというラチェット機構を有することを明らかにした。その結果、これまで混乱のあった細胞質ダイニンの運動機構について、統一的に理解するための見解を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
負荷のかかった状態で、1分子ダイニンがどのように運動することができるかを明らかにする。そのために光干渉計を用いた光ピンセット系を用いて、一定の強さの負荷の下でのダイニンの運動を観測し、運動速度と運動連続性(プロセッシビティ)を計測する。付加を与え続けることにより、自己阻害状態に陥らないような制御機構が存在することを示すことができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では、ダイニン精製のための超遠心機スウィングローターを更新のために購入する予定であったが、ヒト細胞質ダイニンの精製はSPBタグによるアフィニティー精製法が有効であることを見出したため、ショ糖密度勾配による分画が必要でなくなった。また、ヒトダイニンのための培養や精製にかかる費用がかさんだため、スウィングローターを購入するための予算が十分に残らなかった。 コントロール実験として、従来からの方法で精製したブタ脳ダイニンも必要であり、平成26年度の進行状況をみながら、やはりスィングローターの購入が必要かどうかを判断し、平成26年度予算と合わせて使用する。 スウィングローターを必要としない場合には、それに変わる液体クロマトグラフィーが必要となるので、そちらの購入費用に当てる予定である。
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