研究課題/領域番号 |
25291033
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野口 巧 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60241246)
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研究分担者 |
加藤 千尋 神奈川県産業技術センター, 化学技術部, 専門研究員 (50233804)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光合成 / 赤外分光法 / 電子移動 / 光化学系II / 水分解 |
研究概要 |
光化学系IIにおける電子伝達コファクターの酸化還元電位制御(Em)のメカニズムの解明を目指し、第一キノン電子受容体QAおよび第二キノン電子受容体QBの電位制御機構の研究を行った。QA,QBは、いずれもプラストキノン-9(PQ-9)より成り、それらはヒスチジンと非ヘム鉄を介して相互作用している。QAはQBよりも80 mV程低いEmを持つことにより、QAからQBへのスムースな電子移動が実現される。本研究では、光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法による分光解析および密度汎関数法(DFT)を用いた量子化学計算によって、QA及びQBが異なるEmを持つしくみを明らかにした。まず、PQ-9のモデル化合物としてPQ-1を用い、水分子を水素結合供与体とする様々な水素結合複合体モデルについてDFT計算を行い、水素結合数とEmの相関を調べた。その結果、カルボニル基への水素結合数とEmには線形関係があり、1水素結合あたり100-200 mVのEm上昇があることが示された。この関係はアミノ酸モデルを水素結合供与体として用いた複合体の計算においても成立していた。一方、これらのモデルの基準振動解析により、水素結合構造の対称性および水素結合数と中性PQのCO伸縮振動の振動数との間に一定の相関があることが示された。また、セミキノンアニオンの最も強いCO振動バンドの振動数は水素結合構造の影響をあまり受けないが、水素結合するアミノ酸の振動とのカップリングにより特徴的なサイドバンドが現れることが示された。これらの結果を実測のQAおよびQBの光誘起FTIR差スペクトルに適応することにより、QAは対称的な2つの水素結合を持つのに対し、QBは非対称的な3つの水素結合を持つことが明らかとなった。この水素結合数の違いがQAおよびQBのEm値の違いの主原因であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたキノン電子受容体の酸化還元電子制御のしくみについて、フーリエ変換赤外測定と量子化学計算による重要な結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
キノン電子受容体QAおよびQBの酸化還元電位制御の機構解明をさらに推し進めるため、それらの中間に位置し、QAからQBへの電子移動経路を形成する非ヘム鉄中心について、その酸化還元電位の制御機構を明らかにする。そのため、光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法と分光電気化学計測を組み合わせた手法を用い、水分解マンガンクラスターとの長距離相互作用による電位制御機構について調べる。また、光化学系IIの電子供与体側に位置し、マンガンクラスターの直接的な電子受容体として働くチロシンYZについて、その水素結合構造、および電子・プロトン移動反応を光誘起FTIR法と量子化学計算を用いて実験、理論の両面から詳細に調べ、YZとマンガンクラスター間のプロトン共役電子移動反応の分子機構を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
2014年3月でのWindowsXPのサポート終了に伴い、4月の年度初めにコンピュータおよびソフトの購入が必要であったため。 年度初めに研究室内のWindowsXPコンピュータ(Winodw7コンピュータへ)およびソフトの更新を行う。その他は主に実験のための物品費と旅費に充てる。
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