研究課題/領域番号 |
25291034
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 重彦 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70402758)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハイブリッド QM/MM 法 / 分子動力学シミュレーション / G タンパク質 / モータータンパク質 / 光受容体タンパク質 / 多極子相互作用 |
研究概要 |
本年度は、QM/MM RWFE-SCF 法と LRPF 法を用いて、Ras-GAP と F1-ATPase の NTP 加水分解活性、及び Rh の光活性化の分子機構に関する研究を推進した。また、QM/MM RWFE-SCF 法の拡張を目指し、QM-MM 相互作用の多極子相互作用演算子の開発を行った。以下にそれぞれの詳細について述べる。 Ras-GAP の GTP 加水分解反応の分子機構:QM/MM RWFE-SCF 法を用いて、反応の始状態、遷移状態、及び終状態の自由エネルギー最適化構造を決定した。その結果、遷移状態生成に伴う Switch-I ループによるメタリン酸の認識に相関する、Ras-GAP 間の大きな構造変化、及び活性部位からの水の排除が観測された。また、自由エネルギー摂動法により、反応の活性化自由エネルギーを計算し、観測された大きな構造変化が反応の促進に大きく寄与をしていることを見出した。 F1-ATPase の ATP 加水分解反応の分子機構:QM/MM RWFE-SCF 法を用いて、反応の始状態と遷移状態近傍の中間状態の自由エネルギー構造最適化を行った。その結果、反応の始状態において、ガンマサブユニットの回転に対応する顕著な構造変化を観測した。これは、リン酸結合の解離に伴う構造変化と推測される新たな知見である。また、遷移状態近傍への反応基質の構造変化により、基質周辺の水素結合ネットワークの大きな変化を観測した。 Rh の光活性化の分子機構:QM/MM RWFE-SCF 法を用いて Lumi 構造のモデリングを行った。自由エネルギー構造最適化は完了し、現在、分子振動解析による解析を行っている。 QM-MM 相互作用の多極子相互作用演算子の開発:最初のバージョンの開発は完了し、小分子の自由エネルギー構造最適化が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載の計画に対して、おおむね順調な成果が得られている。Ras に関しては、化学状態間の自由エネルギー差の計算も終了しており順調である。F1-ATPase に関しては、新たな知見が得られ、新たな進展が見込まれる。Rh も Lumi 状態のモデリングはほぼ完了しており、ほぼ計画通りである。また、QM-MM 相互作用の多極子相互作用演算子の開発も進展し、具体的な系への適用が始まっている。
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今後の研究の推進方策 |
Ras-GAP に関しては、ほぼ計画通りに研究を推進し、観測された大規模構造変化の解析を進めた後、研究結果を論文にまとめる。F1-ATPase に関しては、新しく観測された構造変化はモーター機能を解明する上で非常に意義深く、その解析を進める。そのために、当初の計画では予定されていなかった、リン酸が結合している状態についても、自由エネルギー構造最適化を行い、リン酸結合と化学反応活性の相関を明らかにする。また、反応遷移状態生成で見られた結合部位の水素結合ネットワークの変化による自由エネルギーの寄与の正確な見積もりには、現在の手法では困難であることが予想されるため、自由エネルギー計算の際に、新たな反応座標を加えた手法を開発する。Rh の Lumi 状態のモデリングでは、分子振動計算による解析が終了した後、研究成果を論文にまとめる。また、QM-MM 相互作用の多極子相互作用演算子の開発については、計画通りに、カルボン酸の pKa 計算を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末にデータバックアップ用のハードディスクの購入を計画していたが、若干、計算が遅れ、その時点では必要ではなくなったため。 計算は進んでおり、データバックアップ用のハードディスクを購入する。
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