研究課題
ミトコンドリアは「細胞の発電所」とも呼ばれるATP産生の要であり、細胞はそのエネルギー需要によって、ミトコンドリアの量をダイナミックに増減させる。一方ミトコンドリアは、そのエネルギー変換の過程で生じる活性酸素種に直接曝されている。過去の知見から、余剰なミトコンドリアや酸化ストレスによるダメージを蓄積したミトコンドリアは丸ごと隔離され、分解コンパートメントであるリソソーム(酵母では液胞)に運ばれて除去されると考えられている。この機構はオートファジーの系を利用していることから「マイトファジー」と呼ばれる。本年度の研究では、選択的ミトコンドリア分解に重要な新規因子としてOm14を見出した。Om14欠損細胞では、マイトファジー誘導時に起こるミトコンドリアの断片化が強く抑制されていることがわかった。ミトコンドリアが小さく断片化することは、マイトファジーが効率よく起こるために重要であると考えられている。既知のミトコンドリア分裂制御因子Dnm1を欠損してもマイトファジーは8割程度の効率で起こるが、Om14欠損細胞では5割近くまで顕著に低下することがわかった。Om14はミトコンドリア外膜に局在する膜タンパク質であり、オートファジーやタンパク質を積み荷とした選択的オートファジーには必要ない。通常の培養条件において、Om14欠損細胞のミトコンドリア形態は野生株同様チューブ状である。一方、マイトファジー誘導条件下の野生株では、ミトコンドリアは断片化するが、Om14欠損細胞ではチューブ状のままであることが明らかとなった。以上の知見から、マイトファジーにリンクして駆動するミトコンドリア分裂機構があり、Om14はその経路で重要な役割を果たしていると想定できる。
2: おおむね順調に進展している
マイトファジー関連因子の中には、タンパク質の生合成に関与する新生ポリペプチド結合複合体NAC(nascent polypeptide-associated complex)の構成因子Egd1が含まれている。最近、NACがミトコンドリア外膜タンパク質Om14と結合し、合成と共役したタンパク質輸送に機能していることが報告された。なお、NACのミトコンドリアタンパク質輸送の機能は、Egd1だけでなくEgd2(Egd1とヘテロダイマーを形成するNAC構成因子)も必要とするが、Egd2欠損細胞でマイトファジーは大きな影響を受けていないことを確認している。一方、Om14欠損細胞でマイトファジーを調べたところ、顕著に低下していることがわかった。さらに、野生株やEgd1およびEgd2欠損細胞で見られるミトコンドリアの断片化が、Om14欠損細胞では強く抑制されている。上記の結果から、Om14欠損細胞のマイトファジーおよびミトコンドリア分裂の不全は、Egd1の機能やミトコンドリアタンパク質輸送への影響によるものでないことが示唆された。これらの知見は、Om14欠損細胞において、ミトコンドリアの断片化が正常に起こらないことが直接の原因となり、マイトファジーが抑制されている可能性を提起している。Om14は、マイトファジーが誘導されていない細胞のミトコンドリア形態制御には必要ないが、マイトファジーが駆動されると、ミトコンドリアの断片化に重要な役割を果たす。このような特徴を持つタンパク質は、Om14以外には知られていない。今後の解析により、マイトファジーに特異的なミトコンドリア分裂についての知見を世界で初めてもたらすことが期待される。
マイトファジーに特異的なミトコンドリア分裂の分子基盤を明らかにするため、(1)Om14の細胞内動態・翻訳後修飾・ドメイン機能・相互作用を解析する。(2)膜形態制御ダイナミン様GTPaseの関与を検討する。(3)マイトファジー誘導条件下で培養した細胞からOm14とその結合タンパク質を精製し、質量分析を用いて候補因子を同定する。(4)得られた候補因子のOm14との結合を確認するとともに欠損変異株を作製し、マイトファジーに影響があるものについては、発現パターン・局在・タンパク質間相互作用などを調べ、分子機能を明らかにしてゆく。
当初の予定より、解析が順調に進んだため、消耗品の支出が節減できた。また、顕微鏡観察に必要なソフトウェアの購入には、別の財源を充てることができたため、機器の支出も抑えられた。
本年度の研究成果により、マイトファジーにおけるOm14の役割が明らかとなるだけでなく、これまで明らかにされなかった新規のミトコンドリア分裂因子を捉えることにより、選択的ミトコンドリア・オートファジーの基本原理に新視点を与えることができると考えている。そのための解析に必要な費用について、繰越し金を有効活用する。
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