研究課題/領域番号 |
25291049
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 純 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (10451999)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 心臓再生 / エピジェネティクス / ChIP-seq / 細胞分化転換 / 可塑性 |
研究実績の概要 |
心臓再生時に発現亢進するクロマチン制御因子 A: 心筋(aMHC)プロモータ上にGFPをノックインしたトランスジェニックマウス(aMHC-GFP TG)マウスを用いて心臓切除(resection)有無で、GFP陽性の細胞を選別後BrdU陽性細胞と陰性細胞とで遺伝子発現(qPCR)比較を行った。これにより、増殖心筋特異的な発現変化を調べることが可能となる。その結果、心臓切除されたGFP+;BrdU+分画の細胞群でGFP+BrdU-分画の細胞群に比べて、クロマチン構造変換因子(Smarcd3とSmarca4)において3.5倍強の顕著な発現変化が見受けられた。つまり、serectionすることにより、心筋増殖活性が亢進し、その際にクロマチン因子Smarcd3の発現亢進も同様な挙動を示すことが分かった。 B: 次に、マウス心臓再生時におけるこれらの遺伝子の時系列な発現変化を免疫組織化学法を用いて追跡したところ、切除後1日以内にBaf60c(Smarcd3がコードしている)タンパク質の発現が亢進していることが確認された。ウエスタンブロッティング法を用いても同様な結果を得ている。さらに、この一過的な発現亢進がマウス心臓再生特異的なものなのか、心臓再生共通のメカニズムなのか知る為に、再生能力の高い有尾両生類アホロートルを用いて心臓切除後のBaf60cの発現変化を調べた。その結果、心臓切除後1日後以内にはBaf60cタンパク質の発現が一過的に亢進しており、心臓切除後9日目にはBaf60cの発現は切除前の量に戻っていることが明らかとなった。これにより、上記Aの遺伝子発現とタンパク局在の変化を統括して、Baf60c(Smarcd3)は哺乳類のみならず生物が心臓再生を行う上で、共通して一過的に発現が亢進する因子であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CHIPの系を立ち上げて、結果が順調に得られている。次年度には論文へと持っていくことが可能であると考えられる。心筋がなぜ再生能を失うのか、明確になってきたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
心筋の可逆性を分子のレベルから証明した初めての研究であると考えている。エピジェネティックな変化が心筋における遺伝子発現(心筋:心トロポニン、心臓転写因子:Gata4、血管新生サイトカイン:VEGF)の抑制を引き起こし、結果として急な環境変化に対して心筋細胞が対応できないような性質へと変化していくことを証明した。逆に心臓切除によりTNFαの発現が誘導され易くなり心筋壊死プログラムが遂行される環境となっていることを見いだした。これらのゲノム修飾変化はBAF60cの強制発現系において、これらの抑制が解除され結果的に遺伝子発現の再誘導が引き起こされることを見いだした。つまり、Baf60cは心筋壊死プログラムを緩和またはリセットし、幼若期へと巻き戻していると示唆される。これらの研究によって、心筋細胞の中で、環境変化をセンスし反応する細胞群が存在するのではないかと考えられる。このような細胞が出生後における心臓全体内でどう局在するのか、または心筋細胞全てが持っている能力なのか、が今後のテーマであると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年12月から平成26年2月まで、研究代表者の不測の病気(脳梗塞)により入院したため、実験評価、追加実験、解析等を延期することとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
1:細胞別のRNAシーケンスによる遺伝子発現変化プロファイルの作製を行なった。 2:全ゲノムでの制御領域と可変領域の特定を目指す為に、CHIP-シーケンス解析系を立ち上げた。
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備考 |
東京大学分子細胞生物学研究所 心循環器再生研究分野 http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/junktakeuchi-lab/index.html
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