研究課題/領域番号 |
25291054
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
藤森 俊彦 基礎生物学研究所, 初期発生研究部門, 教授 (80301274)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | マウス / 卵管 / 細胞極性 |
研究概要 |
マウス卵管上皮では、繊毛運動の向き、細胞の形態、内腔のひだが、それぞれ卵管の長軸に沿っている。平面内細胞極性因子(PCP因子)を欠失する卵管上皮での表現型解析およびモザイク解析、培養系での極性形成の経時的観察などを通して、PCP因子が多階層に渡って卵管上皮の形態形成をいかに制御しているかを明らかにする。細胞内の極性から、細胞の形態、組織の形態という多階層をつなぐ極性を制御する機構が存在していると考えられ、この機構の実体を明らかにすることを目標とする。本年度は以下の項目の研究を進めた。 1). 細胞内から組織形成までの階層をつなぐ機構としての力学的連結、異方性が関与する仮説を実験的に検証した。レーザーによって細胞辺を変性し切断した際に見られる周辺領域の移動を計測し、そこから力の推定を行った。その結果、Celsr1の存在の有無にかかわらず、細胞辺の卵巣―子宮軸との角度にも寄らず、ほぼ一定の張力が細胞辺に加わっていることが判明した。 2).Vangl1、Vangl2のノックアウトマウスを用いた解析。 Vangl2ノックアウトマウス胚は、胚性致死であり本研究の目的である卵管の解析には利用できないため、Creで誘導可能なVangl2コンディショナルノックアウトマウスを用いる。プロジェステロン受容体プロモーター下でCreを発現するBACトランスジェニックマウスを作製し、卵管で組換えを誘導したが、十分な数の細胞での組換えは起こらなかった。 3). Celsr1ノックアウトマウス胚からES細胞を樹立し、これを用いてキメラマウスを作製した。卵管上皮細胞シート全体でなくモザイク状にPCP間連因子を欠失した状態が得られた。その結果、多くの場合細胞自律的に細胞極性が決まっている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績で示した通り、当初予定していた計画はほぼ順調に進められた。2)でのコンディショナルノックアウトマウスを作製する点については、目標を達成できていないが、タモキシフェン誘導型Creを用いて成体でノックアウトを誘導すること、更に今後新たなCre発現マウスを作製し導入する計画である。3) については予定した実験がほぼ完了し、画像解析を更に進める。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度行った研究項目2)および3)については次年度も引き続き進める。更に当初計画していた以下の項目の研究を進める。 4). Vangl2の細胞内局在を可視化したマウスの細胞を用いて、培養下で細胞極性を再現する実験を行う。細胞極性を誘導する刺激について、化学刺激、物理刺激などを検索する。培養下で細胞極性を形成することができる場合、集団の中で個々の細胞の極性がどのように調整、伝搬されるか、それに必要な因子は何かを経時観察を含め検討する。 5). Celsr1変異体においては、繊毛の向きから判断して細胞内での極性が揃っていないこと、細胞の形態についても極性を失っていること、更に組織レベルでの形態形成異常が見られることから、階層を超えた機構が存在することが示唆された。そこで、Vangl1,2変異体を用いたモザイク解析や培養系での細胞集団の組み合わせなどによって、この機構に迫る。細胞外の液体の流れ等の方向性をもつ物理的な刺激や液性因子の濃度勾配などの外的環境が細胞の方向性を決めるのか、あるいは細胞内に生じた小さな偏りが隣あう細胞間で協調、伝搬されて大きな極性へとつながるかという2つの可能性が推測される。この2つの可能性について検証する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究の計画はほぼ予定通り進行した。当初の配分額が減額されていたため、2年次以降の計画を順調に進めるために、初年度予算を可能な限り切り詰めることを決めた。解析に使用するマウスの数が予定よりも少なかったこと、雇用を予定していた技術補佐員なしで研究が遂行できたことなどから、本年度予算は予定よりも少ない額で研究を進めることが可能となった。一方で、次年度以降の実験計画からすると、マウスの維持、作製などに経費がかかる可能性が予想されたため、基金分を繰り越すこととした。 繰り越した基金分については、当初の計画を遂行する為に、2年次、3年次に使う経費として使用する予定である。
|