研究課題
本研究は、緑藻クラミドモナスの走光性の符号(正か負か)が、細胞内レドックス状態によって制御されていることに着想を受け、その分子メカニズムを明らかにするため、1) 光合成のステート遷移と走光性の符号の連関について精査すること 2) 走光性レドックス調節が異常なミュータントの原因遺伝子を同定すること 3) 鞭毛内レドックスシグナリングの分子経路を同定すること の3つを柱としている。1)について、H26年度はステート遷移不能株の走光性符号を詳細に検証したが、予想と異なり、正負の走光性をどちらも示した。当初の予想と異なり、光合成ステートと走光性符号は厳密な相関はない可能性が示唆された。2)について、当初目標としていた3株のうち、2株の原因遺伝子の同定に成功した。うち1株は眼点に異常があり、直接レドックスに関係しないことがわかったが、もう1株は細胞内レドックス状態に影響を与えている可能性が高いことが判明した。現在、酸化還元電位可視化タンパク質をこの細胞に導入し、それを定量的に検証する実験が進行中である。3)について、鞭毛ダイニンサブユニット型チオレドキシンの欠失株を得ることに成功した。この株は走光性符号を入れ替える活性酸素濃度が野生株と異なるという予備データを得た。現在、そのチオレドキシンの相補実験によって効果を検証する実験が進行中である。
2: おおむね順調に進展している
実績概要に記した3つの柱にそって述べる。1)について、申請時点の予備データでは野生株を用いて光合成ステートと走光性符号に綺麗な相関が得られていたが、その時点ではミュータントを用いた実験が進んでいなかった。H25年度に戻し交配によって得たステート1固定ミュータントstt7(株のストックセンターなどで入手可能な、通常他の研究室で使われているものは運動性変異株を伴った多重変異株であることが我々の研究により明らかになった)を用いた実験をH26年度に精力的に行うことで、残念ながら現時点では予備データで見られた相関の裏付けが取れないことが判明してしまった。ただし、連関の精査が目的であったため、現時点ではネガティブな結果ではあったものの、一定の成果と言うことができる。2)について、3株のうち2株の同定に成功し、順調に進んでいる。もう1株については、原因遺伝子予想領域のゲノムデータに問題があることが判明したため、保留にすることを決めた。3) について、遺伝子長が短いため当初困難が予想されたダイニンサブユニット型チオレドキシンミュータントの単離に無事に成功したことで、大きく進展している。
1)については、光合成ステートと走光性符号の相関を、光によるステート誘導実験、ステート遷移不能ミュータントを用いて詳細に再検証する。2)については、2つのミュータントの解析結果について論文執筆中であり、早期の投稿を目指す。3)については、チオレドキシン欠失ミュータントの表現型解析と相補実験、さらに活性部位変異型チオレドキシンによる相補実験を行い、当初予定通りにチオレドキシンターゲットの同定に結びつける。
H26年度にチオレドキシン型ダイニンサブユニットミュータントが得られ、H27年度にターゲットの質量分析を行うこと、またH26年度に 新奇走光性変異株が単離できたため、H27年度に次世代シーケンシングを行うことが想定されたため、その外注費用を残しておきたかった。
質量分析および次世代シーケンサーの外注費用に使用する予定。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 111 ページ: 9461-6
10.1073/pnas.1403101111
http://www.res.titech.ac.jp/~junkan/Hisabori_HomePage/index.html