研究課題
本研究は、単細胞緑藻クラミドモナスを用いて、光合成のステート遷移と走光性の符号切り替えの連関を検証する目的で行われた。我々は数年前に、クラミドモナスが示す走光性の正と負が、細胞内の酸化状態と還元状態を反映しているという知見を得た(Wakabayashi et al., PNAS 2011)。この研究を発展させ、予備的データとして、光合成のステート遷移が走光性の符号と一致している可能性、すなわちステート1のときに正、2のときに負の走光性を示す可能性が示唆された。しかし、H26年度までに、その再現性は得られなかった。H27年度は、これまでの実験の光条件が適切でなかった可能性を見出した。これまでの実験では、研究室野生株の走光性符号を基準に光強度を設定していたが、この野生株はすくなくとも走光性符号の点では野生株と言えず、符号に偏りがあることが判明したのである。通常運動実験には用いられない別の野生株の符号切り替えを基準に光強度を設定し、その条件でステート誘導を行ったところ、以前の予備的実験と同様に符号が分かれることがわかった。この条件を確定すべく、期間延長を申請した。この研究の副産物として、新たな走光性符号ミュータントを得ることができた。光合成関連ミュータントを得る目的で走光性符号が野生株と逆のミュータントを単離したところ、眼点形成異常ミュータントが得られた。このミュータントが野生株と逆方向に泳ぐのは、細胞がもつレンズ効果によって光源方向を逆だと勘違いすることだと判明した。H27年度はこのミュータントのレスキュー実験などを行って論文にまとめ、受理された(Ueki, Ide et al., PNAS 2016)。
3: やや遅れている
研究の途中で得られた副産物的な発見について、競争があることもあり論文にすることを急いだため、論文としての成果は得られたものの、研究の主目的の遂行はやや遅れていると言わざるを得ない。しかし、上記副産物的研究を論文化する過程で、主目的のステート遷移と走光性の連関を調べるための至適光条件を導き出すことができた。研究期間延長を申請したので、その間に大きく進めることを目標にする。
今後は、ステート誘導を行いつつ走光性を検定するための光条件を固定し、そこで野生株とステート1固定変異株stt7などのミュータントの走光性符号を検定することを急ぐ。また、最近、本研究計画のもととなった2011年の我々の論文をもとにして、「走光性のスピードの速いミュータントを探したら、それが光合成活性の高い株だった」という研究が発表された。我々の着目している、走光性と光合成の連関というアプローチが正しく、かつそれが競争のある分野に発展しつつあることがこのことからも分かる。走光性検定については我々に一日の長がある。今後はより光合成分野の研究者との連携を深めて、この分野の発展に尽くしたい。
主目的であるステート遷移と走光性連関を検証する至適光条件が、3年めの半ばになってようやく固定することができた。そのため、この条件を使って実験を追加すべきと考えた。
主として細胞培養関連の薬品、ガラス器具、プラスチック器具、さらに走光性検定用のLED照明などに使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 113 ページ: 5299-5304
10.1073/pnas.1525538113
http://www.res.titech.ac.jp/~junkan/Hisabori_HomePage/index.html