研究課題/領域番号 |
25291059
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉田 護 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 教授 (70154474)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 葉緑体 / ミトコンドリア / 遺伝子発現 / PPRタンパク質 / RNA編集 / RNAスプライシング |
研究概要 |
近年、植物オルガネラ遺伝子の発現制御の鍵因子としてpentatricopeptide repeat (PPR)タンパク質が注目されているがその機能に関する知見は断片的である。本研究ではPPRタンパク質を網羅的に解析して、PPRタンパクによる植物オルガネラ遺伝子の発現制御の分子機構の解明を目指す。25年度の成果は以下の通りである。 (1)PPRタンパク質のN末端配列とGFPの融合タンパク質の一過的発現観察、またはPPR遺伝子の終止コドン直前にGFP配列を翻訳融合したGFPノックイン株を用いたGFP蛍光の観察を行った。その結果、これまでに31種のPPRタンパク質の細胞内局在を決定した。このうちPpPPR_104は核局在であったが、その他はすべてミトコンドリアか葉緑体の一方または両方に局在することを明らかにした。細胞内局在の予測結果と合わせると、ヒメツリガネゴケの全PPRタンパク質の9割については細胞内局在がほぼ確定した。 (2)ヒメツリガネゴケのPタイプPPRタンパク質の機能解明を目指して、30種についてPPR遺伝子ノックアウト株の作製を試みた。その結果、12種のPタイプPPRタンパク質遺伝子ノックアウト株の取得に成功した。 (3)PpPPR_65はミトコンドリアのccmFc mRNAのRNA編集に、PpPPR_98はミトコンドリアのatp9 mRNAのRNA編集に関与することを明らかにした。これにより、ヒメツリガネゴケのミトコンドリア11カ所すべての編集部位に作用するすべてのPPRタンパク質編集因子が明らかになった。 (4)PPRタンパク質の標的RNA分子を迅速に特定するためのリアルタイム定量PCR法を確立した。この方法を用いて、PpPPR_31がミトコンドリアのRNAスプライシング因子として機能する可能性が高いことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)PPRタンパク質の細胞内局在決定がほぼ予定通りに進展した。このうち核局在のものと、ミトコンドリアと葉緑体の両方に局在するPPRタンパク質を明らかにしたのは大きな成果である。 (2)12種ものPタイプPPRタンパク質遺伝子のノックアウト株を取得したのは大きな進展である、次年度以降、ノックアウト株を用いた機能解析を推進することができる。 (3)ヒメツリガネゴケのミトコンドリアに存在する全11カ所のRNA編集部位に作用するすべてのPPRタンパク質を明らかにすることができた。これは植物ミトコンドリアでは初めてのことであり、高く評価できる。 (4)PPRタンパク質の機能解析のためリアルタイム定量PCR法を導入したこと、及びこの方法を用いてPpPPR_31がミトコンドリアのRNAスプライシング因子である可能性が高いことを見出したのは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)残り8種のPPRタンパク質の細胞内局在が不明である。これらの細胞内局在を明らかにするため、PPRタンパク質にGFPをノックインした変異株の観察を継続する。 (2)26年度はできるだけ多くのPPRタンパク質の標的RNAを同定することに重点をおく。具体的には以下の内容で研究を進める。 1.前年度に得られたPPR遺伝子のノックアウト(KO)株と発現抑制(KD)株を用いて、葉緑体とミトコンドリアのRNA蓄積レベルを詳細に調べる。RNAの安定性やRNAスプライシングの異常、ポリシストロニックRNAの切断異常に着目して観察する。 2.上記の解析で顕著なRNA異常が観察されたものについては、野生株とKO株またはKD株から抽出したRNAを用いて次世代シーケンサーでRNA-Seq解析を行う。 (3)PPRタンパク質の機能ドメインの解析を進める。PPRタンパク質にはPPRモチーフ以外にも多種多様な保存アミノ酸配列ドメインが存在するが、その中でもRNA編集との関連性が推定されるDYWドメインの機能について集中的に解析を行う。このための材料としてRNA編集欠損変異株を用いる。様々な変異PPR遺伝子をRNA編集欠損変異株に導入して、RNA編集の回復を観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)今年度取得した多数のPPR遺伝子ノックアウト株の葉緑体とミトコンドリアの遺伝子発現レベルの解析を行う予定であったが、実際に解析できたのはPpPPR_31遺伝子ノックアウト株のみであった。残り大多数のPPR遺伝子ノックアウト株の発現解析を次年度の前半に集中的に行うため、リアルタイム定量RT-PCR解析と次世代シーケンサーを用いたRNA-Seq解析の経費として次年度使用額が生じた。 (2)今年度末に複数のPPRタンパク質の抗体製造を業者に委託したが抗体作製には時間がかかるため抗体の納品が次年度となる。その分の次年度使用額が生じた。 発現解析のためのオリゴDNA、RT-PCR関連消耗品、次世代シーケンサーを用いたRNA-Seq解析を行うための物品費(シーケンス反応キット、解析委託経費など)に使用する。PPRタンパク質抗体作製の委託費として使用する。
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