研究課題/領域番号 |
25291063
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
坂本 亘 岡山大学, その他部局等, 教授 (20222002)
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研究分担者 |
高見 常明 岡山大学, その他部局等, その他 (70614254)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 葉緑体 / ミトコンドリア / オルガネラ分化 / DNA分解 / 葉老化 / ステイグリーン / ヌクレアーゼ |
研究概要 |
本研究では、申請者らが見出したDPD1ヌクレアーゼによるオルガネラDNA 分解機構の生物学的意義を明らかにするための研究を行う。特に、花粉でのDNA分解機構を通して同定されたDPD1が、葉の老化など養分転流時にも誘導されることを証明し、被子植物が共通に持つDNAサルベージ機能であることを明らかにする。 今年度は、in silico解析によって示された葉の老化過程でDPD1遺伝子が誘導されるか確認するため、野生株の切除葉を暗黒処理することで人為的に老化を誘導する実験系を確立した。さらに、この系を用いて遺伝子発現誘導をRT-PCRにより確認した。その結果、暗黒処理によりDPD1遺伝子が発現誘導され、そのピークが処理後3~5日後であることが明らかとなった。またこの暗黒処理により老化の指標となるSAG12遺伝子、SGR遺伝子も同様に発現誘導されたことから、DPD1遺伝子が花粉だけでなく老化葉においても機能する可能性が示唆された。 今年度はさらに、花粉で見られたDPD1ヌクレアーゼによるオルガネラDNA分解が老化葉でも見られるかを、野生株とdpd1変異体の老化葉からDNAを抽出してqPCRにより確認した。qPCRは、従来のリアルタイムPCRを用いた方法に加え、本研究ではデジタルPCRを用いた解析方法を確立してこれらの実験も並行して行った。その結果、どちらの解析法を用いても、野生型の老化葉ではオルガネラDNA量が暗黒処理前の葉と比較して顕著に減少するが、dpd1変異体ではオルガネラDNAの減少は確認出来なかった。DNAレベルの現象は、野生型とdpd1を用いた老化葉のDAPI染色による組織化学的な観察でも同様な傾向が見られた。以上の結果から、今年度は、DPD1ヌクレアーゼが老化葉において発現誘導され、オルガネラDNAの分解に関与していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.DPD1 の老化誘導の実証:当初の計画にあったDPD1遺伝子の発現誘導解析では、野生株の切除葉を用いた暗黒処理による老化誘導法が確立され、老化過程においてDPD1遺伝子が誘導されることが実証された。予想以上にこれらの結果が順調に進展している。一方、タンパク質レベルでのDPD1の蓄積について予想以上に困難であることがわかり、確認は出来たものの、26年度以降に再現性を確認する必要がある。 2.DPD1 ノックダウンラインの作出:タバコとシロイヌナズナのDPD1ノックダウン株の作出は予定通りに行うことができ、全ての個体作成を完了してDNA分解を観察することができた。タバコ形質転換体においては花粉中のオルガネラDNAが分解されていない形質転換体を得ることはできなかったが、シロイヌナズナ形質転換体は得ることができた。これらの材料については想定されるよりも明確な形質を得ることができなかったので、26年以降はdpd1変異体に集中して研究を進める。 3.老化に関するdpd1形質の検証:暗黒処理による老化過程においてDPD1遺伝子の顕著な誘導が見出されたことを踏まえて、dpd1形質を検証する目的で、野生株とdpd1変異体の老化葉の細胞あたりに含まれる葉緑体DNA量をqPCRにより定量した。今年度は特にデジタルPCRでの解析法も確立して調べる実験を立ち上げた。その結果、野生株において暗処理により葉緑体DNA量は劇的な減少が見られた。dpd1変異体では老化葉においても処理前とほぼ変わらない葉緑体DNA量が維持されており、葉の老化過程において野生株と比較しステイグリーンの表現型を示すことを見いだした。DAPI観察でも同様な結果が得られており、全てが予想以上に順調な結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
DPD1のサルベージ機能を証明するための研究が順調に進展しており、当初の計画に沿って研究を進めて行く予定である。25年度の結果を踏まえ、26年度においては以下の2点に注力して研究を推進する予定である。 1.ステイグリーンと葉緑体遺伝子発現 これまでの結果からdpd1変異体では老化葉においても葉緑体DNAが分解されないことを明らかにし、また弱いながらもステイグリーンの表現型を示すことがわかった。このステイグリーンの表現型を葉緑体遺伝子発現の側面から評価する予定である。予想される結果としてdpd1変異体では老化葉においても葉緑体遺伝子の発現が維持されていることが考えられるので、これまでの実験に加え、老化誘導実験系における葉緑体遺伝子発現もリアルタイムPCRにより解析する。 2.オルガネラDNA分解とサルベージ 本研究の最終目的である、DPD1ヌクレアーゼがサルベージ機能の一端を担っているかを明らかにするため、26年度は、dpd1変異体と野生型における代謝物の変化、特に、ヌクレオチド代謝、プリン・ピリミジン代謝に着目し、老化葉を用いてメタボローム解析などを試みる。ヌクレオチド代謝物の変化が明確になれば、サルベージとの直接的な関係が明らかにできる。またこれらの解析以外にも、EdU、BrdUなどのチミジンアナログを使ったトレーサー実験を老化の暗黒誘導系と組合せて解析を行い、分解されたDNAが実際に転流されるかをモニタリングする研究を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の年度末に計画して行われている実験が、次年度も継続して行うことになったので、これらの遂行のために必要な研究費については、次年度に繰越して使用することにした。 前年度より継続している研究について、それらにかかる今年度の経費について使用し、年度当初に執行する予定。
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