研究課題
基盤研究(B)
本研究では、最近我々が発見したフィトクロムによる選択的スプライシング制御の分子機構を明らかにし、その標的遺伝子の網羅的同定と機能解析を行うことで、光シグナル伝達においてフィトクロムが転写制御に加えて選択的スプライシング制御を行うことの生理学的意義を明らかにすることを目的とする。本年度は、フィトクロムによる選択的スプライシング制御の標的遺伝子をシロイヌナズナのゲノム内で網羅的に同定する目的で、次世代シーケンサーを用いたmRNA-seqを行い、フィトクロムシグナル依存的にスプライシングパターンを変化させる遺伝子をゲノムワイドに解析した。その結果、シロイヌナズナゲノム内にて、1000を超える遺伝子が、定常状態でのmRNA量を変化させることなく、その選択的スプライシングパターンを、フィトクロム依存的に、赤色光に応じて1時間以内に素早く変化させることが明らかとなった。さらに、Gene Ontology解析を行った結果、フィトクロムによる転写制御の主な早期標的遺伝子が、過去の報告通り転写因子であるのに対して、フィトクロムによる選択的スプライシング制御を赤色光照射後1時間以内に受ける主な遺伝子はRNAスプライシング関連遺伝子であることが明らかとなった。これらの結果から、フィトクロムは、赤色光受容後1時間以内に、転写因子遺伝子に対して転写制御を、そしてRNAスプライシング関連因子遺伝子に対して選択的スプライシング制御を、それぞれ別々に行うことで、赤色光に応じた転写カスケードと選択的スプライシングカスケードをゲノムワイドに誘導するというモデルが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、光シグナル伝達においてフィトクロムが転写制御に加えて選択的スプライシング制御を行うことの生理学的意義を明らかにするために、1) 最近我々が発見したフィトクロムによる選択的スプライシング制御の分子機構を明らかにし、そして、2) その標的遺伝子の網羅的同定と機能解析を行う、という2つの具体的な研究目標を掲げている。そしてこのうち2)について、本年度に行った研究の成果からその目標をほぼ達成できたものと考えられる。
今後は、フィトクロムによる選択的スプライシング制御の生理学的意義を明らかにするために、今回のmRNA-seqで同定された1000を超える標的遺伝子のうち、フィトクロムのシグナル伝達に重要であることが既に報告されているいくつかの特定の遺伝子について、フィトクロムシグナル依存的に生じるスプライスバリアントの生理機能を形質転換植物において調べるなどして、解析を進める。さらにフィトクロムによる選択的スプライシング制御の標的遺伝子分の中から、既知のフィトクロムシグナル伝達関連因子だけではなく、新奇のフィトクロム下流因子の同定も進め、光生理学的解析を行う。
次年度にさらにいくつかのmRNA-seq解析を行う必要が生じ、多くの物品費が必要となるため、本年度は購入する消耗品の数量を必要最低限に抑えるなどして、研究費を意図的に温存した。いくつかの新たなmRNA-seq解析を行うための消耗品代に使用する計画である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
Plant Physiology
巻: 162 ページ: 1529-1538
BMC Genomics
巻: 14 ページ: 786