研究課題/領域番号 |
25291064
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松下 智直 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20464399)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フィトクロム / 光受容体 / 植物 / シグナル伝達 / 光生理学 |
研究実績の概要 |
植物は、周辺環境を把握するための情報源として光を利用し、適応を図っている。フィトクロムは、この植物の光情報利用において中心的な役割を果たす赤色光受容体である。フィトクロムは、赤色光により活性化された後、PIFと呼ばれる転写因子群を抑制することで標的遺伝子の転写量を変化させ、植物の様々な光応答を引き起こすと考えられている。しかし我々は最近、地道な順遺伝学的解析により、新奇スプライシング因子であるRRC1がフィトクロムのシグナル伝達に必要であることを明らかにした。そして我々は本研究において本年度、次世代シーケンサーを用いたmRNA-seq解析により、フィトクロムが転写制御に加え、それとほぼ同じ規模で、シロイヌナズナゲノムの6.9%にも及ぶ遺伝子に対して選択的スプライシング制御を行うことを明らかにした。さらに、フィトクロムのシグナルによって標的遺伝子の選択的スプライシングパターンが変化し、そのことが実際に植物の光応答に寄与することを実験的に示した。以上の結果から、フィトクロムは遺伝子発現を量的に変化させるだけでなく、質的にも変化させることで、植物の光応答を引き起していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は本年度、フィトクロムは遺伝子発現を量的に変化させるだけでなく、質的にも変化させることで、植物の光応答を引き起していることが明らかにし、その成果を論文に発表した。そしてその結果、フィトクロムは赤色光に応答して、転写因子遺伝子の転写制御と、スプライシング因子の選択的スプライシング制御を、同時にかつ直接行うことで、それぞれ転写カスケードと選択的スプライシングカスケードを介して、ゲノム規模での遺伝子発現の多段階制御を行い、植物の光応答を引き起こすという、フィトクロムのシグナル伝達に関する新たなモデルが提唱されるに至った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究における焦点の1つは、フィトクロムによる選択的スプライシング制御の分子機構解明である。我々はこれまでに、フィトクロムは核内でN末端領域からシグナルを発することで、RRC1を介して選択的スプライシング制御を行うことを既に明らかにしている。したがって、当面の研究目標は、フィトクロムのシグナルがどのような分子機構でRRC1へ伝達されるのかを明らかにすることである。今後、生化学的解析を中心に精力的に研究を進めることで、フィトクロムとRRC1を結びつける因子を同定し、フィトクロムによる選択的スプライシング制御の分子機構の解明を目指す。 また、フィトクロムによる選択的スプライシング制御の標的遺伝子は、フィトクロムによる転写制御の標的遺伝子とは基本的に異なり、それらの遺伝子の多くについては、これまで光による発現制御の報告は一切無い。したがって、そこには植物の様々な生理現象が光によって制御される未知のメカニズムが多数存在していると考えられるため、これらの分子機構解明を今後の研究のメインテーマの1つとして進めて行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度は補助金の請求額が少ないため、H26年度は基金分を温存し、最終年度に備えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
補助金と合わせて、最終年度における成果報告等にかかる費用に充てる計画である。
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