植物の主要な光受容体であるフィトクロムは、PIFと呼ばれる転写因子群を介して標的遺伝子の転写制御を行うことで、植物の光応答を引き起こすと考えられている。しかし我々は最近、フィトクロムの下流因子として新奇スプライシング因子RRC1を順遺伝学的に同定したことをきっかけに、フィトクロムがRRC1を介してゲノムワイドに選択的スプライシング制御を行うことで光シグナルを伝達するのではないかという可能性が示唆された。 そこで、その可能性を検証する目的で、次世代シーケンサーを用いたmRNA-seqを行い、フィトクロムシグナル依存的にスプライシングパターンを変化させる遺伝子をゲノムワイドに解析した。その結果、フィトクロムが転写制御に加え、それとほぼ同じ規模で、シロイヌナズナゲノムの6.9%にも及ぶ遺伝子に対して選択的スプライシング制御を行うことを明らかにした。また、Gene Ontology解析により、フィトクロムによる転写制御を受ける遺伝子が主に転写因子をコードする遺伝子であるのに対して、フィトクロムによる選択的スプライシング制御を受ける主な遺伝子はスプライシング関連遺伝子であることが明らかとなった。 さらに、光シグナル伝達のネガティブレギュレーターであるSPA3について、その選択的スプライシングパターンがフィトクロムシグナル依存的に変化し、そのことが生理学的に光形態形成の促進に寄与することを実証した。我々は以上の結果から、フィトクロムが、遺伝子発現の異なるステップである転写と選択的スプライシングを、直接かつ同時に制御することで、植物の光応答を引き起すことを実証し、植物の光情報利用における新奇機構を世界に先駆けて発見した。
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