研究課題/領域番号 |
25291065
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
椎名 隆 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (10206039)
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研究分担者 |
古市 卓也 名古屋経済大学, 人間科学系, 准教授 (80436998)
中平 洋一 茨城大学, 農学部, 准教授 (40423868)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 葉緑体 / ミトコンドリア / レトログレードシグナル / Ca2+ |
研究実績の概要 |
植物細胞の葉緑体やミトコンドリアが発信する逆行性シグナルは、細胞の増殖や分化の制御、病原体感染やストレスに対する応答制御などで、重要な役割を果たしている。しかし、その分子実態や生理的役割の詳細は明らかになっていない。葉緑体を中心にレトログレードシグナルの分子機構を明らかにし、その生理的役割を解明するのが本研究の目的である。まず、接触刺激に対する応答遺伝子を同定するために、次世代シーケンサを使ったトランスクリプトーム解析を行った。その結果、接触刺激に対する遺伝子発現応答が、病原体分子パターン(PAMP)に対する応答で見られる防御遺伝子の活性化と成長関係遺伝子の抑制(成長と防御のトレードオフ制御)とよく似ていることを見出した。さらに、同様なトレードオフ制御が、ミトコンドリアの電子伝達を阻害することで生じることを見出し、ミトコンドリアが発するレトログレードシグナルが成長と防御遺伝子のトレードオフ発現制御に関わっている可能性を明らかにした。さらに、機械刺激応答とDBMIB応答で、細胞質ゾルのCa2+濃度上昇が共通して見られることも見出した。この細胞質Ca2+動員は、細胞内Ca2+ストアに依存しており、ミトコンドリアによる細胞質ゾルのCa2+動態制御が重要な働きをしている可能性が示唆された。 また、ミトコンドリアに局在するCa2+制御因子の候補として、バクテリア型機械需要チャネルMSLおよびCa2+輸送制御因子MICU1に注目し、それらがミトコンドリア内膜に局在するタンパク質であることを明らかにした。さらに、根の色素体において、塩ストレスや浸透圧ストレスに応答したCa2+濃度の一過的上昇が見られることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1 接触刺激応答遺伝子のトランスクリプトーム解析を行い、病原体分子パターン(PAMP)に対する応答で見られる防御遺伝子の活性化と成長関係遺伝子の抑制(成長と防御のトレードオフ制御)とよく似た遺伝子発現応答をすることを見出した。また、遺伝子応答に先立って、細胞質 ゾルのCa2+濃度の一過的上昇が起こること、このCa2+動員は細胞外からのCa2+流入を必要とせず、色素体またはミトコンドリアが関わる可能性を示した。 2 葉緑体及びミトコンドリアの電子伝達阻害剤であるDBMIBが、PAMP応答および接触刺激応答と同様な遺伝子発現のトレードオフ制御を行うことを見出した。また、DBMIB処理も、細胞質ゾルCa2+濃度の一過的上昇を引き起こすことを明らかにした。一方、細胞内Ca2+濃度を人為的上昇させた場合も、同様なトレードオフ制御が起こることがわかった。これらを総合し、葉緑体ミトコンドリアの電子伝達阻害が細胞質Ca2+上昇を引き起こし、遺伝子発現のトレードオフ制御が起こる可能性が示された。また、同様な過程が接触刺激応答時にも起こっている可能性も示唆された。 3 ミトコンドリア内膜にバクテリア型の機械需要チャネルMSL1が局在することを確認した。また、ミトコンドリア内膜のCa2+チャネルMCUがミトコンドリアに局在することを示すとともに、MCUの制御因子MICUがミトコンドリア内膜に存在することを生化学的に確認した。 4 塩や浸透圧変化などの複数の非生物的ストレスに応答して、根の色素体で一過的きCa2+上昇が起こることを見出した。また、この応答は、細胞外からのCa2+流入が必要であることを明らかにした。 以上のように、ほぼ計画通りに研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
機械刺激に対する遺伝子発現応答にミトコンドリア由来のレトログレードが関係することを証明するとともに、そのレトログレードシグナルの実態を解明する。また、機械刺激受容やDBMIB応答にミトコンドリア局在の機械受容チャネルMSL1やCa2+輸送制御因子MICU1が関係する可能性を検証する。さらに、葉緑体局在のCa2+結合タンパク質CASのリン酸化の役割についての研究を進める。そのために、平成28年度は以下の研究を進める。 1 機械刺激に対する遺伝子発現応答をさらに詳細に解析するとともに、機械刺激応答のトレードオフ制御がミトコンドリアによるレトログレード制御を受けていることを明らかにするために、暗所や根での遺伝子発現の機械刺激応答を解析する。また、同様な解析をDBMIB応答遺伝子についても完成させ、機械刺激応答の上流にミトコンドリアレトログレードシグナルが働くことを明らかにする。 2 ミトコンドリア由来のレトログレードシグナルとして、ミトコンドリアを介した細胞質ゾルのCa2+動態制御と、ミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)の関与が考えられる。両者の可能性を、Ca2+動態の詳細な解析、ROSのイメージングなどの解析を通して明らかにする。さらに、MSL1およびMICU1のノックダウン(アウト)変異体や過剰発現体を用い、機械刺激やDBMIBに応答した遺伝子発現のトレードオフ制御への関与を解析し、ミトコンドリアCa2+輸送がレトログレードシグナルの発生に関係している可能性を探る。 4 CASは光によってリン酸化されることが知られている。リン酸化部位を変異させた変異体系統を作成している。これらの変異体系統を用いて、CASのリン酸化の生理的役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に計画していたトランスクリプトーム解析を、試料調整の関係で平成28年度に実施することになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度において、トランスクリプトーム解析(300,000円)を2回実施する予定である。
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