研究課題
胚発生過程で,いったんは不活性化されるX染色体が発生の進行とともに再活性化されてしまうSmchd1-/-のメス胚では,エピジェネティック制御の維持機構が損なわれていると予想されたが,前年度のまでに行った免疫染色によるヒストン修飾の解析では,SmcHD1欠損胚線維芽細胞(MEF)と野生型のMEFとの間に有意な差は見いだされなかった.しかし,不活性X染色体の特徴の一つであるS期後期に限定されるDNA複製について調べたところ,SmcHD1欠損MEFでは60-70%の細胞で2本のX染色体がいずれも典型的な活性X染色体の複製パターンを示していた.これが,不活性X染色体の再活性化の原因か結果は不明であるが,SmcHD1の欠損が引き起こす表現型の一つと考えられた.SmcHD1欠損が招く再活性化の程度を詳細に解析するため,不活性化されるX染色体が一方に限定されるよう細工するとともに,2本のX染色体を塩基多型で区別できる亜種間雑種の胚を得て, それらからMEFを作製しRNA-seqを行った.また,ヒストン修飾については免疫染色ではSmcHD1欠損MEFを特徴づけるような異常は見出されなかったので,クロマチンのレベルの詳細な解析を行うために共同研究によりChIP-seqに着手した.さらに,複製タイミングの異常の詳細については,当初考えていた高速シーケンサーを用いた解析ではなくマイクロアレイを用いた解析に変更し,準備を進めている.
2: おおむね順調に進展している
RNA-seqやChIP-seqの解析は,これまでのところ大まかな解析にとどまっているが,共同研究者の努力によって解析プログラムも徐々に改善されてきたので,間もなく詳細な差異までを見出せるようになることが見込まれる.複製タイミングに関するマイクロアレイの解析も,現在共同研究者の協力を得て準備を進めている段階であるが,最初の結果は数か月のうちに得られるものと期待できる.
SmcHD1欠損が招くクロマチンの異常と不活性X染色体の再活性化の程度について,ヒストン修飾やSmcHD1およびこれと相互作用する因子に着目したChIP-seqとRNA-seqの解析をできるだけ早い段階でまとめ上げる.これまでのSmcHD1欠損胚におけるX染色体連鎖遺伝子の発現解析は,いったん不活性化を開始したX染色体が安定な不活性状態を確立できていないことを示唆している.しかし,実際には変異胚が野生型同様にX染色体不活性化を開始しているのか,十分に検討できていない.これは,エピブラスト系列の細胞で不活性化が開始される時期には,まだSmcHD1欠損ホモ接合体と野生型の区別がつかず,解析できていないためである.そこで,SmcHD1欠損ホモ接合体のメスES細胞を樹立し,その分化誘導過程で起こると予想されるX染色体不活性化の様子を野生型ES細胞の場合と比較し,SmcHD1欠損胚でもいったんは不活性化が開始されているか検討する.さらに,これまでの解析はSmcHD1欠損ホモ接合体の胚及びこれに由来するMEFを用いた解析であるので,X染色体不活性化の開始,確立,維持のいずれのプロセスにおいてもSmcHD1を欠いていた影響を見ているものと解釈できる.そこで,X染色体不活性化が一旦確立し,安定に維持されている細胞でSmcHD1を欠失させ,その影響についてX染色体連鎖遺伝子の発現,染色体複製に着目し,解析を行う.これらの解析により,クロマチン機能の質的変化の維持にSmcHD1とその共役因子がどのような役割を果たしているか理解する.
4-7月はもっぱら研究室立ち上げ準備に時間を割く結果となり,今年度の本格的な研究と物品購入が夏以降となったため.また,8月に移動したマウスの繁殖に手間取り,時間を要しているため,飼育ケージ等の購入数が当初の予想を下回った.
SmcHD1欠損MEFを用いて,RNA-seq,ChIP-seq,マイクロアレイ解析を行うので,その試薬購入に多くの費用を要する.また,マウスの飼育数の増大に伴い,ケージ等の購入に充てる.
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 2件)
Genes Genet. Syst.
巻: 89 ページ: 151-157
http://dx.doi.org/10.1266/ggs.89.151
Cell
巻: 159 ページ: 1681-1697
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2014.11.040