本研究課題は、生物がなぜL-アミノ酸を使うのかという生命の本質に迫る問いに対し、その起源と進化を明らかにし、分子識別のメカニズムに迫ることを目的としている。ヌクレオチドの重合には塩基同士がスタッキングし、近接していくことが重要であるが、シアヌル酸を用いた溶媒が、効果を発揮することが分かってきた。CDスペクトル解析を用いたD型天然ヌクレオチドのスタッキングの解析では、シグナルの質が十分でなく、確固たる結果を得るには至らなかったものの、シアヌル酸の存在下で、D型天然ヌクレオチドの塩基のスタッキングに起因すると思われる溶液の粘度の変化を見て取ることができた(ゲル様構造の生成)。特に、このゲル様構造の生成が、溶液内の陰イオンの存在に、大きく影響していることが示唆された。一方、D―モノヌクレオチド(5’-pA)の5’-リン酸基に2-メチルイミダゾール基を付加した5’-2-MeImpAを用いて、反応溶液中に渦(右回り、左回り)を発生させた場合の重合の解析、および、反応条件についての検討を詳細に行ったが、残念ながら、今のところ、渦の影響による重合の効果の違いは見出されていない。申請者が発見した「RNAのキラル選択的アミノアシル化」におけるキラル選択性の分子メカニズムに迫るべく、キラルアミノアシル化の最小生成物である、3’-L-アラニル-アデノシンと3’-D-アラニル-アデノシンの分子動力学計算を行ったところ、わずかながら、3’-L-アラニル-アデノシンの方が安定であることを示唆する結果が得られた。しかしながら、溶液組成の検討はまだ十分だとは言えないため、更なる継続的な研究推進が必要となる。
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