共生系において、いかにして異なる生物の構造や機能が融合し、統合されたひとつの生命システムに進化するのであろうか?その遺伝子基盤を明らかにするために、昆虫アブラムシと共生細菌ブフネラの細胞内共生系をモデルに研究を行った。今期(平成27-28年度)は、特に新規分泌ペプチドBCRの解析を重点的に行った。私はアブラムシに特有の新規分泌タンパク質ファミリーを同定しBCRと命名し、それらのmRNAが共生器官特異的に発現することを明らかにしていた。これらの遺伝子は、N末の分泌シグナルに続いて約60アミノ酸残基の比較的短いペプチドをコードし、システインを6~8個持つ特徴的な一次構造を有している。 前年度までに、苦労の末いくつかのBCRの抗体作製に成功し、免疫染色によりBCRが共生器官細胞に強く発現することをつきとめていた。今期は、超高解像度顕微鏡Lattice microscopeを用いてBCRがブフネラの周縁部に局在することを明らかにし、さらに免疫電顕を用いて細胞膜に局在することを明らかにした。 アブラムシ類のゲノム・トランスクリプトーム情報が蓄積してきたので、インフォマティクスによるBCRの比較解析が可能になった。オーソログ探索と分子進化解析の結果、BCRは進化速度の速い遺伝子であることが明らかになった。 共生系におけるBCRの機能は何だろうか?BCRが大腸菌等の細菌に抗菌活性を持つことから、共生細菌のpopulation制御に関わっている可能性がある。また、BCRで処理すると細菌の膜の透過性が上昇することから、共生的代謝における低分子のやりとりに関与している可能性もある。最近、ほかの共生系でも抗菌ペプチド(AMP)様の遺伝子が高発現している例が報告されている。それらの研究者と情報交換を行い、symbiotic AMPの機能と進化について議論し、総説論文にまとめた(in press)。
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