研究課題
本研究では、シダ植物の近縁な無配生殖種と有性生殖種の交雑に由来する雑種が胞子形成をする際に高頻度で減数し、無配生殖をする子孫と有性生殖をする子孫の両方を生み出す性質を利用して、シダ植物の無配生殖をする性質を支配している遺伝領域を特定することを最終目標にしている。平成26年度は特にオニヤブソテツ類について特に進展が見られたので、これを報告する。3倍体無配生殖型のオニヤブソテツと2倍体有性生殖型のヒメオニヤブソテツの間の推定4倍体雑種(アツバオニヤブソテツと仮称)、ならびに同じく3倍体無配生殖型のオニヤブソテツと2倍体有性生殖型のムニンオニヤブソテツの推定4倍体雑種(ウスバオニヤブソテツと仮称)、各1個体から胞子を採取して、寒天プレート上で発芽させた。そして、生じた配偶体を1個体ずつ単離して、受精せずに胞子体を形成する配偶体(すなわち、無配生殖能をもつ)と形成できない(無配生殖能のない、すなわち有性生殖をする)配偶体に分けた。その結果、アツバオニヤブソテツでは、無配生殖能をもつ子孫:もたない子孫=209:235、ウスバオニヤブソテツでも、無配生殖能をもつ子孫:もたない子孫=105:135で、どちらも1:1から有意にずれていない割合で両生殖型と考えられる子孫が得られた。これらは無配生殖を引き起こす遺伝領域の特定に十分使える材料になるはずである。さらに、オニヤブソテツ用に開発された核DNAマーカーの一つであるG6pdg遺伝子の塩基配列多型が分離するかどうかについても、同じ推定雑種個体の子孫配偶体を用いて調べた。その結果、ウスバオニヤブソテツではPCR増幅させた402bpの塩基配列の148-149番目の塩基において、RR(RはA+G)だった部分が「AA」になっている子孫配偶体も見いだされた。したがって、核DNAマーカーにおいても、遺伝的分離が起きていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
オニヤブソテツ類とベニシダ類について、核DNAマーカーの開発は順調に進んでいる。さらに、オニヤブソテツ類では、無配生殖型と有性生殖型の雑種においても、核DNAマーカーが確かに遺伝的分離を起こすことを示すデータも得られた。また、無配生殖型と有性生殖型の推定雑種個体から採取した胞子より、無配生殖能をもつ子孫配偶体(無配生殖の性質をもつ)と無配生殖能をもたない(有性生殖型と推定される)子孫配偶体を数百個体得ることにも成功している。したがって、研究は順調に進展しているといえる。
3倍体無配生殖型と2倍体有性生殖型の間の推定4倍体雑種の子孫において、無配生殖能をもたないと判定された子孫配偶体には、無配生殖能をもつが、まだ胞子体を形成するに至っていない個体が少数ながら含まれている可能性が高い。したがって、胞子体を形成しなかった配偶体については、もう少し培養を続けて無配生殖能がある個体には胞子体を形成させ、そのような子孫個体を少しでも取り除く必要がある。さらに、無配生殖能をもたなかった子孫個体が有性生殖能を確かにもつことを確かめる実験も是非したいと考えている。すなわち、胞子体を形成しなかった配偶体の一部について、2倍体有性生殖型(オニヤブソテツ類の場合は、ヒメオニヤブソテツ、あるいはムニンオニヤブソテツ)の胞子を周りに蒔いて、実際に受精が起こるかどうかを調べる実験も行いたい。このような実験を一方で行いながら、分離する遺伝マーカーと無配生殖能の相関を調べることによって、シダ植物において無配生殖を引き起こす遺伝領域の特定を進めて行く予定である。
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http://www.biol.se.tmu.ac.jp/labo.asp?ID=plasys