引き続き、自家不和合性の第二の謎「S 対立遺伝子の多様化は初期進化時に起きる?」の理論的な解明に挑んだ。 古い S 対立遺伝子が消え新しいものに置き換わってしまうのは、雄側に変異を持った花粉が大きな他殖成功を遂げるためである。この成功度が小さいのなら、古い S 対立遺伝子も維持されるのではないか。そうすれば、S 対立遺伝子の種類が増えていくことになる。 そこで注目したのが、自家不和合性の初期進化過程である。同じ S 対立遺伝子を持つ花粉を拒絶するシステムが十分には成立していないならば、どのハプロタイプの花粉も相応の他殖成功を上げることができるであろう。そうならば、変異花粉の相対的有利さが小さくなり、その増殖が抑えられるのではないか。 実際、S 対立遺伝子の多くは、同じ自家不和合システムを持つ異なる植物種間で共有されている(Igic ら 2006)。つまり、個々の S 対立遺伝子の起源は古いということである。このことは、S 対立遺伝子が、自家不和合性が進化した初期に多様化した可能性を示唆している。 今年度は、自家不和合性システムが不完全な下で、S 対立遺伝子が多様化しうるのかどうかを理論的に解析した。そして、数値シミュレーションを行い、S対立遺伝子が多様化する仮定を追跡した。その結果、自家和合性から自家不和合性が進化する過程において、S対立遺伝子が爆発的に増えることを示すことができた。
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