研究実績の概要 |
近年、ミジンコ個体群では温暖化に伴って浮遊個体として越冬する個体が増加する一方、有性生殖による休眠卵生産が減少しているという。しかし、このような越冬様式と個体群の遺伝構造との関係はよく分かっていない。そこで、ミジンコ個体群の冬様式と遺伝構造との関係を、生殖様式とニッチ幅から検討し明らかにすることを目的に本研究を行った。 前年度までの研究で、畑谷大沼のDaphnia dentifera(ハリナガミジンコ)個体群では、休眠卵で越冬する個体と浮遊個体として成体越冬する個体がおり、これらは遺伝子交流の殆ど無い2集団として存在していることがわかった。そこで、集団遺伝構造を詳細に解析したところ、休眠卵で越冬する集団は遺伝的多様性が高く、休眠卵を春から初夏にかけて産卵し夏以後は殆ど見られなくなること、一方、成体越冬する集団は遺伝的多様性が低く夏から秋にかけて卓越的に出現していた。このことから、休眠卵越冬する集団の個体は、成体越冬する個体との競争による排除が生じる前に有性生殖を行い、休眠卵生産することで集団全体の遺伝的多様性を維持していることが示された。 また、畑谷大沼のもう1種のミジンコ、D. pulexについても遺伝解析したところ、この種では全く遺伝子交流のない2つの独立した隠蔽個体群(A,B)が存在していることがわかった。さらに核遺伝子を用いた解析を行ったところ、D. pulexは有性生殖を行わない絶対単為生殖集団であることが判明した。休眠卵生産実験を行ったところ、競争に劣位な個体群(B)は優位な個体群(A)に比べて個体密度増加や餌の枯渇に応答してより高い頻度で休眠卵生産を行うことが明らかとなった。これら一連の結果から、ミジンコ種では種内・種間でのニッチ重複が大きいが、それによる競争圧が大きくなる前に休眠卵を生産することで遺伝的多様性や複数の隠蔽個体群が維持していることがわかった。
|