研究課題/領域番号 |
25291099
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
佐々木 顕 総合研究大学院大学, その他の研究科, 教授 (90211937)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インフルエンザ / 抗原連続変異 / サブタイプ / 抗原エスケープ / 宿主免疫 / 共進化 / 基本再生産数 / 進化速度 |
研究実績の概要 |
疫病に対する政策決定において最も基本的で重要な課題は病原体の基本再生産数R0を推定する事である。インフルエンザウイルスのように抗原を急速に変えて持続的流行を行う病原体において推定されるR0は、それぞれの流行年において、たまたま宿主集団の免疫から突然変異によってエスケープに成功した抗原をもつウイルス変異体が、宿主集団免疫が上昇するまでの間の一時的な感染者数増加率から推定されるものであり、その年に限った疫学動態予測や防除政策に役立つものである。しかし、長期間にわたり持続的流行を続けるウイルスのサブタイプ(インフルエンザA香港型、Aロシア型など)の進化的・長期的な疫学・進化動態は、この特定年の特定抗原タイプのR0では決まらない。
本年度の研究では、抗原の多様性を包括するウイルスのサブタイプ(インフルエンザA/H3H2など)を単位とした「サブタイプ基本再生産数」を理論的に再定義し、疫学パラメータ・遺伝学的パラメータへの依存性を明らかにして、宿主のウイルスに対する長期的な戦略や、長期的な公衆衛生政策への応用について議論することを試みた。具体的には、各抗原タイプのウイルス株の流行と宿主集団の免疫獲得過程を、そのウイルス株が出現してからの「年齢」に依存する動態として記述することで、突然変異による新しいエスケープ株の出現と、ウイルス集団の多様化を含めたサブタイプ疫学・進化動態を理論化することに成功した。このサブタイプ動態のなかで、サブタイプの消長を特徴づける「メタR0」を定義でき、それが「ローカルR0」(各抗原タイプのR0)や、突然変異率にどう依存するかを明らかにすることができた。さらに抗原サイトの進化速度、サブタイプ内の系統多様性についても理論的に明らかにすることができた。結果は国際誌への投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ウイルス各系統と特異的宿主免疫の共進化動態という、非常に複雑な現象を、各系統を「個体」、突然変異によるエスケープ突然変異体の出現を「出生」ととらえた「齢構成モデル」の枠組みでとらえることに成功した。このブレークスルーにより、解析的な結果が数多く得られ、多大な時間とパラメータの組み合わせの検討を必要とする大規模シミュレーションを予定していた計画の遂行を大幅に短縮できた。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス各系統に対する特異的免疫も過程した、サブタイプの抗原連続変異動態については、本年度の理論的発展でほぼ解明できた。来年度は、交差免疫の効果、重複感染時のウイルス系統同士の宿主個体内競争・干渉を取り入れた理論を発展させ、解析的予測と大規模シミュレーションと連動させて、全体像の解明を目指す。
最終年度にあたるため、国際会議での報告、国際誌への掲載発表にもエフォトを集中させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の研究では、大規模計算機によるシミュレーションより解析的結果が大きく進展したので、計算関係の備品の使用額等が予定よりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の研究では、大規模シミュレーションを多用する予定であり、そのための備品やソフトウエアに利用する。また、国際会議での研究成果の発表のための旅費、国際誌掲載のための投稿料等にも利用したい。
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