研究課題/領域番号 |
25291102
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大串 隆之 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10203746)
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研究分担者 |
内海 俊介 北海道大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10642019)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 群集 / 生態系機能 / 適応進化 |
研究概要 |
セイタカアワダチソウ上の昆虫群集の構造を調査した。セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシは季節を通して昆虫群集を大きく規定していた。特にアリと植物の形質の変化を介した間接効果が、アブラムシと共存している春の昆虫だけでなく、アブラムシがいなくなった秋の昆虫の個体数にも影響を与えていた。これにより、アブラムシによる植物を介する間接効果が時間的に棲み分けている春と秋の群集を繋ぐこと、アブラムシがアワダチソウ上の群集ネットワークのキーストン種であることがわかった。 アメリカと日本のセイタカアワダチソウを滋賀とミネソタの実験圃場に植え、植食性昆虫群集を比較した。植食性昆虫の密度と種数について、滋賀では日本のアワダチソウの方がアメリカに比べて有意に増加した。一方、アメリカでは逆に日本のアワダチソウの方がアメリカに比べて密度と種数は有意に低下した。この結果は、日本とアメリカの植食性昆虫がそれぞれの地域に生育するアワダチソウの遺伝子型に適応していることを示唆している。 アワダチソウグンバイの密度と食害レベルを日本各地の55カ所で調査した。グンバイの密度と食害はグンバイの定着年数が長くなるほど低下する傾向が見られた。また各地域のアワダチソウの倍数性を調べたところ、いずれも6倍体であった。原産地の北米では2、4、6倍体が分布しており、日本に侵入したのが6倍体のみか、6倍体だけが定着に成功した可能性が考えられる。さらに、アワダチソウの分子集団遺伝学的解析に不可欠なマイクロサテライトマーカーを開発した。 アワダチソウの北海道への侵入状況、特に道北地域への分布拡大状況を明らかにするため、野外調査を行った。その結果、旭川近郊にアワダチソウ群落が確認され、道北地域の幌加内町や苫前町にもアワダチソウが定着していることがはじめて明らかになった。また、アブラムシもこれらの地域で定着していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
セイタカアワダチソウ上の昆虫群集ネットワークについては、季節を通して群集のネットワーク構造を明らかにしただけでなく、春のアブラムシの吸汁によるアワダチソウの再成長と質の変化が秋に出現するカイガラムシとオンブバッタの個体数を規定することで、時間的に隔離されている植物上の昆虫群集が間接的に繋がっていることを世界に先駆けて解明した。 日本全国の50カ所以上のアワダチソウの調査によって、グンバイに対するアワダチソウの抵抗性に地理的な変異が見られ、この変異がグンバイの定着年数と関係していることがわかった。これはグンバイの定着年数にともなってアワダチソウの抵抗性が進化したことを示唆している。特に、侵入植物が原産地の植食者と再会することで、再び淘汰要因として働く可能性を示しており、この抵抗性の獲得のメカニズムを明らかにすることで、(侵入植物が原産地の天敵から逃れることで防衛レベルを低下させるという)天敵解放仮説を大きく拡張する可能性が開かれた。 アワダチソウの共通の遺伝子型を用いた圃場実験より、日本とアメリカの植食性昆虫がそれぞれの地域に生育するアワダチソウの遺伝子型に適応しており、これが生物多様性にまで波及することがわかった。これにより、種多様性に対する遺伝的多様性が果たす役割の解明という、生物多様性維持におけるBig Questionに迫る可能性が開かれた。 アワダチソウの倍数性とマイクロサテライトの遺伝マーカーの開発に関する論文2報を、生態学の国際誌に公表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では野外調査と圃場実験が順調に行なわれ、概要で述べたように、アワダチソウの防衛形質の進化から昆虫群集ネットワークの形成についての興味深い結果が多数得られた。これらの成果を次年度以降の野外調査と操作実験のデザインに活かすとともに、学会や論文等で公表する。 アメリカと日本での昆虫群集の比較から、生態系ネットワークの構造とアワダチソウの遺伝子型との繋がりが明らかになってきた。このメカニズムを解明するために、アワダチソウの遺伝子型と被食によって誘導される表現型可塑性に注目した、相互作用ネットワークと落葉分解に関する圃場実験を開始する。 アワダチソウグンバイに対するアワダチソウの抵抗性の進化が示唆されたため、日本とアメリカでそれぞれの遺伝子型のアワダチソウを用いてグンバイの接種実験を行ない、アワダチソウの防衛・成長・繁殖の各形質に対するグンバイの影響を評価する。さらに、日本での抵抗性の進化とともに、アメリカでの抵抗性の局所適応を明らかにする圃場実験を行なう。 アワダチソウだけでなく侵入昆虫のセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシとアワダチソウグンバイについても、分子集団遺伝学的解析を用いて遺伝構造を明らかにし、その地理的変異を日本とアメリカで比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の日本各地での野外調査から、群集構造や食害の大きな地理的変異があることが明らかになった。次年度使用額が生じた理由は、日本での調査範囲の拡大だけでなく、アメリカでのアワダチソウの調査集団を増やすために旅費を確保することが必要になったためである。 次年度は日本とともにアメリカでのアワダチソウの共通圃場実験と野外集団の調査に重点的に配分する予定である。
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