本研究の目的は、感染寄生体を手がかりとして、人類集団の移動・交渉・適応について、これまでとは違う切り口からアプローチしようとするものである。集団の系譜は遺伝子を調べるのがベストと考えられるが、遺伝子を介さない個体間交渉については、情報が得られない。本研究計画では、そのような、交易・交渉・訪問といった、人と人とのふれあいの痕跡を、感染寄生体の研究から探ろうとするものである。対象とする寄生体には、潜伏感染を示す常在ウイルスを想定している。感染様式(母子感染・家族内感染)と社会構造・婚姻体系を組み合わせ、ウイルスの系統を民族集団の関係に重ねることによって、集団間交渉や社会構成に新たな知見をもたらすことも目的の1つである。 一般に、ウイルス感染検査は生体の一部を採取、すなわち侵襲的方法により行われている。侵襲的方法の良さはその効率にあるが、非侵襲的方法でウイルス感染を調べられるなら、それに越したことはない。そこで,ヘルペスウイルスの一種であるリンパ潜在ウイルスの検出を非侵襲的方法で試みた。糞試料を材料としてDNAを抽出、PCR法を用い、同ウイルス特異的DNAを増幅した。増幅DNAの塩基配列を解析することでウイルス特異的DNAの確認をした。特筆すべきは、消化管内寄生体ではなく、脈管局在性のウイルス感染を検出したという点である。
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