研究課題/領域番号 |
25292008
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宅見 薫雄 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50249166)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生殖隔離 / 高密度連鎖地図 |
研究実績の概要 |
育種において近縁種からの有用遺伝子の導入は、困難な育種目標を達成するために必要である。実際にパンコムギ育種においても、タルホコムギ等の近縁野生種からの病害抵抗性遺伝子や種子貯蔵タンパク質遺伝子の導入が図られているが、実際には種間の生殖隔離等の技術的問題から、必ずしも野生種という遺伝資源が有効に活用されていない。タルホコムギの遺伝子利用には合成パンコムギを介した遺伝子の導入が図られているが、合成パンコムギを育成するために必須の二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種で、ハイブリッドネクローシスなどの生育不良がしばしば認められる。本研究では、このコムギ種間雑種で認められる雑種不全を引き起こす遺伝子、特にタルホコムギ側の遺伝子の単離を目指す。 平成26年度は、雑種不全の中でも低温誘導性ネクローシスを引き起こすタルホコムギ側の遺伝子Net2とハイブリッドクロロシスを引き起こすHch1の両方について研究を推進した。まずNet2については申請者の有するタルホコムギの葉と穂のRNA-seqデータだけでなく、タルホコムギのドラフト配列及び物理地図情報、オオムギのドラフト配列情報を利用しながら2DS上の該当領域のマーカーを開発し、連鎖地図上に位置づけ、Net2の高密度連鎖地図を作成した。Net2周辺の既報のscaffoldについては全て選抜し、このタルホコムギ連鎖地図上に位置づけた。7DS上のHch1についても同様にゲノム情報を使いながら高密度連鎖地図を作成し、Hch1周辺に位置する既報のscaffoldは全てタルホコムギ連鎖地図上に位置づけた。Net2については密接に連鎖する3つのscaffoldの末端配列からBACクローン選抜用のプライマーを設計し、現在BACライブラリーのスクリーニング中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、タルホコムギがもつ二粒系コムギとの生殖隔離遺伝子のうち、Net2とHch1について解析を進めた。タルホコムギのドラフトゲノム情報や物理地図情報、オオムギのドラフトゲノム情報を利用して、Net2の座乗する2D染色体短腕上に分子マーカーを開発して、Net2とHch1に連鎖するマーカーを得て、さらにタルホコムギのドラフトゲノム情報からscaffoldをNet2とHch1周辺に位置づけた。Net2で開発した連鎖マーカーでは、タルホコムギ集団を用いたネクローシスとの関連を調べたところ、有意なアソシエーションが検出された。Hch1では0 cMで連鎖するマーカーが複数開発できた。現在、Net2とHch1周辺領域の物理地図の構築ヘ向け、BACクローンのライブラリーからのスクリーニングに用いるプライマーの設計もでき、選抜を開始できたことから「概ね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
タルホコムギのNet2及びHch1領域に座乗するscaffoldとscaffoldの間をタルホコムギのBACクローンで埋める作業を優先して行う。さらにスクリーニングされたBACクローンの両末端配列データをもとに新たなマーカーを作成して、さらにBACクローンの選抜と整列化を行い、両遺伝子周辺領域の物理地図を完成させ、その配列の全貌を明らかにする。このBACクローンの選抜には近傍scaffoldの末端配列をもとにプライマー設計をして、NBRPコムギのタルホコムギBACライブラリースクリーニングサービスを利用する。Net2及びHch1領域で選抜されるBACクローンの数は10を越えると予想されるので、これらの塩基配列はIllumina社のMiSeqを利用して一気に解読する。これまでの他の遺伝子座の解析結果からscaffoldとscaffoldの間に想定されるBACクローンの数は3つ程度であるので、BACクローンの選抜はさらにもう一回は繰り返す必要があると考えている。その上でBACクローンの選抜と整列化を行い、物理地図を完成する。 この配列データをもとに物理地図上にある遺伝子の予測を行い、Net2及びHch1の候補遺伝子の推定を行う。推定された遺伝子配列については、雑種不全を引き起こすタルホコムギ系統とそうでない系統の間で多型がどの程度存在するのかを調べて、候補遺伝子の中から原因遺伝子を特定する。この際、該当多型のタルホコムギ集団中の分布をコアコレクション(122系統)を用いて行い、核ゲノムのSTRUCTURE解析情報を考慮に入れながら多型サイトと表現型のアソシエーションをTASSELソフトウェアを用いて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Net2やHch1座の高密度連鎖地図は作成できたが,平成26年度末現在、その領域をカバーするBACクローンの選抜の途中であり,BACクローンのエンドシークエンスや内部配列のシークエンシングにかかる費用が平成26年度中には生じなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
Net2やHch1座周辺のBACクローンを選抜中であり、選抜されたBACクローンのエンド配列や内部配列のシークエンシングを行い,そのための費用にあてる。
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