育種において近縁種からの有用遺伝子の導入は、困難な育種目標を達成するために必要である。実際にパンコムギ育種においても近縁野生種からの有用遺伝子の導入が図られているが、実際には種間の生殖隔離等の技術的問題から、必ずしも野生種という遺伝資源が有効に活用されていない。タルホコムギの遺伝子利用には合成パンコムギを介した遺伝子の導入が図られているが、二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種で、雑種ネクローシスなどの生育不良がしばしば認められる。本研究では、このコムギ種間雑種で認められる雑種不全を引き起こす遺伝子、特にタルホコムギ側の遺伝子Net2とHch1の単離と機能の理解を目指した。 平成27年度は、雑種不全の中でも低温誘導性ネクローシスを引き起こすタルホコムギ側遺伝子Net2と雑種クロロシスを引き起こすHch1、この交雑組合せ以外のコムギ種間及び系統間雑種でみられる雑種ネクローシスの遺伝子発現プロファイルとの共通性について研究を行った。Net2とHch1についてはタルホコムギの葉と穂のRNA-seqデータにタルホコムギとオオムギのドラフト配列情報を適用しながら該当領域の分子マーカーをさらに充実し、現状で最大限望める高密度連鎖地図を作成した。その上で密接に連鎖するscaffoldの配列情報を用いて、幾つかのタルホコムギBACクローンを選抜したが、両遺伝子領域の物理地図は完成しなかった。 二粒系コムギとタルホコムギの種間雑種の雑種ネクローシスとパンコムギ系統間及び一粒系コムギ種間雑種で見られる雑種ネクローシスの遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイを用いて比較した。また塩化亜鉛処理によってネクローシス症状を大幅に緩和できることを見出し、塩化亜鉛存在下での遺伝子発現プロファイルも比較したところ、コムギの雑種ネクローシス発症には交雑組合せに関わらず互いに高い正の相関が見られることが明らかになった。
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