平成28年度までの研究から、冬生一年草の生活史分化の鍵形質である種子春化の有無はILS1遺伝子の発現調節で制御されている可能性が高い。また、ILS1が緑体春化遺伝子を含めて既知の花成関連遺伝子とは類似していないことから、新奇花成制御遺伝子発見の可能性がある。これらの可能性は、ILS1の種子春化機能を確定すれば証明される。 そこで、ヒメムカシヨモギILS1 ORFの35S高発現コンストラクトをGatewayベクターで作成し、アグロバクテリウムを用いたフローラルディップ法によってシロイヌナズナに導入した。遺伝子導入シロイヌナズナではILS1が高発現していることが確認されたので、低温遭遇していない種子からの発芽個体が早期開花性であれば、ILS1が種子春化機能をもつ遺伝子であることが確定する。この種子春化検定にはT3世代を用いるが、現在、T2種子を得ている段階である。 また、平成28年度にシロイヌナズナ系統(Col)で種子春化を検出できるアッセイ系が確立されたことから、ILS1のホモログ遺伝子にT-DNAが挿入されたシロイヌナズナ(Col)変異型株を入手して表現型を調べることにした。ILS1塩基配列のシロイヌナズナBlast検索でもっとも一致したのは2つのアイソフォーム遺伝子であった。両遺伝子は相補的にはたらくと推定されることから、それぞれの遺伝子のT-DNA挿入変異型株を交配したが、現在まで二重変異型株を取得できていない。これは両遺伝子座の組換え価が低いためだと思われる。しかし、シロイヌナズナ種子を用いてマイクロアレイ解析を行った結果、種子春化パターンと遺伝子発現パターンの同調性がもっとも高かったのは上記の2遺伝子であったことから、これらがILS1ホモログの種子春化遺伝子である可能性は大であると考えている。
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