研究課題/領域番号 |
25292026
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
西島 隆明 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 花き研究所花き研究領域, 上席研究員 (60355708)
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研究分担者 |
仁木 智哉 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 花き研究所花き研究領域, 主任研究員 (70355709)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 花卉園芸学 / 育種学 / 観賞性 / 突然変異 / トランスポゾン |
研究実績の概要 |
本年度は、DNA型トランスポゾンTtf1の転移が活性化したトレニアの変異体「雀斑」の自殖後代に発生し、花の観賞性の改良にとって重要な変異である上下対称変異、全花弁着色変異、八重変異との組み合わせによって観賞性を向上させる変異を得るため、これらの変異体の自殖第一代を栽培し、変異体のスクリーニングを行った。その結果、着色の放射相称化に影響を及ぼす変異体として、向軸側花弁がより濃い紫色に着色し、着色の放射相称化程度が高まった変異体、ならびに、着色の放射相称化を妨げるブロッチが形成されない変異体、ブロッチが淡色化する変異体を新たに得ることができた。 また、交雑により、上下対称変異、全花弁着色変異、八重変異を組み合わせた系統の作製を目指した。その結果、昨年度までに、F2世代で、2つの変異形質を併せ持つ個体、つまり、上下対称・全花弁着色個体、全花弁着色・八重個体、上下対称・八重個体を得た。今年度は、これらの個体をさらに交雑し、これら3つの形質を全て集積した個体を得ることができた。現在、これらの個体の自殖後代における形質の固定を確認中である。 以上の3つの変異形質のうち、上下対称変異体では、TCP転写因子遺伝子のCYCLOIDEAが、正常型では発現の認められない背軸側花弁で発現し、さらに、TfRADIALIS、TfDIVARICATAの発現部位を変化させることにより、背軸側花弁が向軸側花弁に転換することが明らかとなった。一方で、上下対称変異体および全花弁着色変異体について、原因遺伝子同定のため、Ttf1の挿入パターンが異なる系統とのF2分離集団を作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は、概ね順調に進展していると考えられる。まず、これまで得られていた、上下対称変異、全花弁着色変異、八重変異のうち2つの変異形質を組み合わせた変異体をさらに交雑することにより、3つの変異形質を全て組み合わせた個体が予定通り得られ、この系統が、感覚的な判断ではあるが、放射相称の美しい八重系統であること確認し,今後の形質評価のための材料を整備することができた。 また、これらの形質の修飾変異体として、これまでは、向軸側花弁が着色するものの、他の花弁と比較して着色が薄かった全花弁着色変異体に関して、向軸側花弁が他の花弁と同程度に濃く着色し、着色の放射相称性が高まった変異体を新たに得ることができた。また、想定外の成果として、着色の放射相称化の妨げとなるブロッチが消失した変異体ならびにブロッチが淡色化した変異体を得ることができ、ブロッチの形成機構を解析するための材料を整備することができた。 上下対称変異、全花弁着色変異、八重変異の原因遺伝子の解明に関しては、これまでに、八重変異の原因遺伝子が、クラスC花器官ホメオティック遺伝子であるTfFARであること、そして、その形質発現機構を明らかにすることができた。また、上下対称変異体において、花弁の向背軸性の決定に関与する遺伝子群TfCYCLOIDEA、TfRADIALIS、TfDIVARICATAの発現パターンの変化が、変異形質発現の原因になっていることを明らかにできた。一方、上下対称変異、全花弁着色変異に関して、変異の原因遺伝子を同定するために、Ttf1の挿入パターンの異なる系統とのF2世代を作製した。今後、この集団を用いて解析を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上下対称変異、全花弁着色変異、八重変異の全てを組み合わせた系統が予定通り得られたため、その形質の安定性を確認するとともに、花弁数、花冠の形態ならびに着色の相称性について定量的に評価する。 また、これらの変異と組み合わせることによって観賞性をより高める変異を得るため、自殖第一代のスクリーニングを引き続き進める。 上下対称変異、全花弁着色変異、八重変異の原因遺伝子の解明に関しては、八重変異の原因遺伝子とその形質発現機構の解明が完了した。上下対称変異、全花弁着色変異の原因遺伝子の解明に関しては、Ttf1の挿入パターンの異なる系統とのF2世代が作製できたため、この集団を用いてトランスポゾンディスプレイ解析を行い、原因遺伝子候補を絞り込む。また、全花弁着色変異に関して、より程度の強い変異体が得られたため、これも材料に加え、原因遺伝子の解明に取り組む。一方で、ブロッチが消失ならびに淡色化した変異体が新たに得られたが、この変異は着色の相称性に大きく影響することから、これらの変異体についても原因遺伝子の解明に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は2つある。まず、25年度に研究補助員の適任者が見つかるまでに時間を要し、26年度には、研究補助員のうち1名が年度途中で退職したため、人件費に次年度使用額が生じた。また、26年度には、変異体のスクリーニングを進める過程で、当初の想定外の重要な変異体が得られてきたため、その形質の評価や、原因遺伝子同定のための分離集団の作製など、高額試薬を使わない研究の比率が当初の予定よりもかなり大きくなったこと、出張回数が予定より少なくなり、旅費の支出が少なかったことも、次年度使用額が生じた原因である。一方、27年度には、原因遺伝子の同定や機能解析など、高額試薬類をつかう研究の比率が増えることと、旅費の増加、ならびに論文の投稿に伴う経費の発生が予想されるため、これらに対応した使用計画に変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の通り、27年度には、消耗品の購入、学会等の出張、論文の投稿に関係する予算を増やす必要がある。これに対応するため、消耗品費、旅費、その他の予算を増やす計画である。
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