研究課題/領域番号 |
25292043
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永田 裕二 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (30237531)
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研究分担者 |
津田 雅孝 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (90172022)
大坪 嘉行 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (40342761)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スフィンゴモナス / 環境汚染物質 / 可動性遺伝因子 / ゲノム / 進化 |
研究概要 |
代表的な環境細菌であるスフィンゴモナス細菌群には特定の難分解性物質代謝能力に特化した「スペシャリスト」が数多く存在する。ゲノム情報を基盤としたこれまでの研究で、本細菌群は (i) 様々な物質代謝能力の発揮の基盤となる基本機能を備えていること、(ii) 「環境遺伝子プール」との遺伝子交換を活発に行うこと、(iii) 細胞内で酵素遺伝子の進化やダイナミックなゲノム構造の変化を起こしやすいこと、が強く示唆されている。本研究では、申請者らが確立した有機塩素系殺虫剤γ-HCH完全分解資化細菌Sphingobium japonicum UT26株およびその類縁スフィンゴモナス細菌株の実験系を利用して、高度に難分解性の有機塩素系化合物分解能に注目し、1.スフィンゴモナス細菌群特有の基本的機能の解明、2.細胞外「環境遺伝子プール」からの新規遺伝子獲得に関わるスフィンゴモナス特有の可動性遺伝因子に関する研究、3.獲得遺伝子の最適化に関わる細胞内での酵素遺伝子進化およびゲノム構造変化に関する研究、を平行して実施し、スフィンゴモナス細菌株が特殊能力を獲得・発揮するための分子基盤を解明する。さらに得られる知見を利用して、新規能力の獲得・発揮能に長けたスフィンゴモナス宿主を作製し、POPs分解菌を創出することで、4.スフィンゴモナス細菌細胞を利用した未利用微生物機能開発系の構築を目指す。 本年度は、各項目について、1.UT26株のγ-HCH分解資化に必須の推定ABCトランスポーターLinKLMNの機能を生化学的に解析するための分子間相互作用解析装置を用いた系を立ち上げた、2.UT26株以外のγ-HCH分解細菌3株のゲノム配列を完全決定し、可動性遺伝因子を介したゲノム再編成の詳細を明らかにした、3.ハロアルカンデハロゲナーゼLinBの機能進化に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、各研究項目について、1.スフィンゴモナス特有の機能を司ると推定されるABCトランスポーターLinKLMNの機能解析系をほぼ構築できた、2.UT26株以外のγ-HCH分解能を有するスフィンゴモナス細菌3株のゲノム構造を完全決定し、プラスミドと挿入配列などの可動性遺伝因子を介したゲノム再編成の詳細を明らかにした、3.ハロアルカンデハロゲナーゼLinBの機能進化に関する知見を得た、など研究を進めていく上で重要な成果をあげることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.前年度に立ち上げた分子間相互作用解析系を利用してLinKLMNの基質を解明し、その具体的機能を明らかにする。さらに、他菌株が有するLinKLMNホモログについても同様の解析を行う。特に、UT26株より高濃度のγ-HCH分解が可能な他株由来のホモログはUT26株のものより高機能である可能性があり、それらの構造-機能相関を明らかにすることでLinKLMNの高機能化を試みる。 2.特定の挿入配列の動態とゲノム進化との関連性を解明する。また、UT26株由来のプラスミド除去株の作製、保持レプリコン数の少ない他のスフィンゴモナス細菌株の利用により、多様なプラスミドを受容しやすい宿主細胞を構築する。 3.前年度に得た酵素進化に関する知見を活かして、スフィンゴモナス細菌群を宿主に用いたin vivo実験系で、酵素遺伝子進化過程の追跡を実施する。また、前年度にγ-HCH分解細菌株では、レプリコン間の融合・解離などのダイナミックな構造変化が起こりやすいと示唆された。こうしたゲノム再編成は、獲得した遺伝子の欠失という負の面だけでなく、獲得した遺伝子を含む領域が欠失しにくい構造へ変化する可能性(獲得遺伝子の安定化)や、近傍遺伝子の発現レベルの調節という正の面もあると推定される。本研究では、γ-HCHの添加濃度を変えた条件で継代培養したγ-HCH分解細菌株において、このようなダイナミックな構造変化がどのように、どのような機構で起こるかを次世代シーケンサーによる全ゲノム配列解析で解明する。 4.得られる知見を利用して、新規能力の獲得・発揮能に長けたスフィンゴモナス宿主を作製し、POPs分解菌を創出することで、スフィンゴモナス細菌細胞を利用した未利用微生物機能開発系の構築を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
LinKLMNの生化学的機能解析について、初年度に分子間相互作用を検討する系を立ち上げることはできたが、分子間相互作用解析装置の納入が予定より遅くなり本格的な解析に至らなかった。そのため試薬類の使用量が想定よりも少なく、これを次年度持ち越しとした。 初年度に立ち上げた分子間相互作用解析系を用いて、LinKLMNの基質について本格的な解析を実施するために本持ち越し金を使用する。
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