研究課題
HulA条件的発現抑制株ではグルコース存在下でも細胞膜上にsGFP-MalPが保持され、液胞への移行が遅延したことから、HulAがグルコースに応答したMalPの細胞内取り込みに関与することが示唆された。CreD中に存在する1箇所のPPLYモチーフのアミノ酸置換(PPLA)を行ったCreDはHulA WWドメインとの相互作用を示したが、3箇所のPXYモチーフのうちの2番目のPSYと3番目のPDYに変異導入(PSAおよびPDA)を行ったCreDはHulA WWドメインとの相互作用を示さなかった。PSAとPDAの両変異を導入すると、グルコース存在下におけるsGFP-MalPの細胞内取り込みが抑制され、CreD中のPSYとPDYモチーフがHulAとの相互作用に重要であることが示された。MalP破壊株では培地中のマルトース取込みに顕著な遅延が認められ、マルトースが取り込まれ始める時期と同調してα-アミラーゼが生産されてくることから、細胞内へのマルトース取込みがアミラーゼ生産に重要であることが示された。creA破壊株において、アミラーゼ遺伝子はグルコース存在下でも高い発現が認められたのに対して、マルトース資化遺伝子はマルトース存在下のみで発現するがグルコースでは発現が認められず、互いの遺伝子の発現制御に関与する転写因子の活性化機構に大きな違いがあることが示唆された。また、プロテインキナーゼオーソログ破壊株ではCreAが著しく安定化し、さらにCreAに存在する推定核外移行シグナルに変異を導入することでもCreAが安定化したことから、CreAがリン酸化されて核外に移行し分解される可能性が示された。一方、現在までのところCreAのユビキチン化は検出できておらず、CreAが直接ユビキチン化/脱ユビキチン化によって機能制御を受けるというモデルに疑問が生じた。
3: やや遅れている
HulAがグルコースに応答したMalPの細胞内取り込みに関与することが示されたことに加え、プルダウンアッセイによって3箇所のPXYモチーフのうちの2番目のPSYと3番目のPDYに変異導入(PSAおよびPDA)を行ったCreDはHulA WWドメインとの相互作用を示さなかった。この両変異を導入すると、グルコース存在下におけるsGFP-MalPの細胞内取り込みが抑制されたことから、CreD中のPSYとPDYモチーフがHulAとの相互作用に重要であることが示された。これらの結果については研究計画通りおおむね順調に研究は進展していると判断できる。一方、CreAのユビキチン化は現在までのところ検出できていないのに対して、プロテインキナーゼオーソログ破壊株において、CreAが著しく安定化すること、さらにCreAに存在する推定核外移行シグナルに変異を導入することによってもCreAが安定化したことから、CreAがリン酸化されて核外に移行し分解される可能性が示され、CreAが直接ユビキチン化/脱ユビキチン化によって機能制御を受けるという従来から提示されていたモデルに疑問が生じた。これは研究開始前に予測された結果とは異なり、研究計画の修正を余儀なくすることになり、新たな機能制御機構解明に向けた解析を進めることとなった。以上の2つの成果を合わせて評価すると「やや遅れている」とするのが妥当と考える。
1)creD破壊株、hulAの条件的発現抑制株および野生株に、GFP-MalPを導入し、抗GFP抗体ならびに抗ユビキチン抗体を用いたウェスタン解析を行うことにより、MalPがユビキチン化されていることを確認する。MalPタンパク質のどのアミノ酸がユビキチン化を受けているか調べるため、膜タンパク質の解析ソフトにより推定された細胞質内に局在するN末端領域とC末端領域に存在するリジン残基(N末端側に4残基、C末端側に4残基)についてそれぞれをアルギニンに置換したGFP融合変異体を作製し、malP破壊株に導入してMalPの機能を有していることを確かめた後に、グルコース存在下での細胞内局在性を蛍光顕微鏡観察するとともに、抗GFP抗体および抗ユビキチン抗体を用いたウェスタン解析を行い、ユビキチン化されるアミノ酸を同定する。2)CreAの安定性がリン酸化と核外移行によって制御されていることが示唆されたことから、CreAの細胞内局在と翻訳後修飾について解析を行う。また、HulA-CreDによるユビキチン化標的タンパク質がCreAであると考えられていたが、全く異なる標的タンパク質の存在が考えられることから、脱ユビキチン化酵素CreBの機能を詳細に解析し、その機能制御へのHulA-CreDの関与を明らかにする。従来の研究から予測されていた機能制御モデルとは異なる分子機構が示唆され、新たな分子機構モデルを提唱できる可能性があるため、CreAの細胞内局在制御機構を調べ、CreA安定性との関係性を明らかにするとともに、CreAのリン酸化の有無およびリン酸化部位を明らかにする。
当初の研究計画ではカーボンカタボライト抑制に関与する転写因子CreAがHulAとCreDによるユビキチン化を受けるというモデルをもとに解析を行うこととしていたが、研究を進めるに従い、予想されたモデルが正しくないと考えられる結果が得られてきたため、CreAのユビキチン化に関する解析実験を見直したことにより、次年度使用額が生じたものである。
カーボンカタボライト抑制に関与する転写因子CreAが直接ユビキチン化されることによって制御されていない可能性が高まった一方で、未知の新規制御機構の解明という重要な課題が生まれたことから、糖トランスポーターのエンドサイトーシス機構に加えてCreAの制御機構解明という新たな課題に取り組むために有効に予算を使用する計画である。
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Appl. Microbiol. Biotechnol.
巻: 99 ページ: 1805-1815
10.1007/s00253-014-6264-8