研究課題/領域番号 |
25292046
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾仲 宏康 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (80315829)
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研究分担者 |
宮本 憲二 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (60360111)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 複合培養 / 生合成 / 放線菌 / 抗生物質 / 共培養 / ミコール酸 / 二次代謝 |
研究実績の概要 |
複合培養は、申請者らが開発した抗生物質生産に適した共培養法である。放線菌とミコール酸を外膜に有する微生物(ミコール酸含有細菌)を共培養すると、放線菌が純粋培養時とは異なる抗生物質生産パターンを示す。複合培養法は本現象を用いた抗生物質探索に適した新規培養法である。研究計画は3つからなり、本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 (1)次世代シーケンサーによるゲノムワイドな転写シークエンスによる複合培養時特異的発現遺伝子の同定。 本年度は、昨年度に引き続き、次世代シーケンサーによるゲノムワイドの転写シークエンスを用いて、複合培養時に特異的に発現する遺伝子群の同定をおこなったが、遺伝子の発現パターンの有意な差を検出することが出来なかった。 (2)複合誘導時に特異的に誘導される二次代謝生合成遺伝子プロモーターの転写調節機構の解明。 Streptomyces nigrescens HEK616とT. pulmonisとの複合培養により5-alkyl-1,2,3,4-tetrahydroquinoline (5a-THQ)が複合培養特異的に発現することが明らかになったため、複合培養によって5a-THQ生合成遺伝子群の転写が活性化しているかどうかについて解析を行った。ドラフトゲノム解析より5a-THQの生合成遺伝子群を同定、クローニングした。S. lividansを用いた異種発現より5a-THQの生産を確認した。本クラスター内に存在するプロモーター領域においてRT-PCRを行った結果、複合培養特異的に転写が活性化することが明らかになった。 (3)複合培養の統合深化による効率的な新奇抗生物質の探索。 共同研究により、Streptomyces sp. NZ-6とT. pulmonisとの複合培養により多環マクロラクタム化合物・niizalactams A-Cを発見し、学術誌に発表した。しかしながら、複合培養の統合進化による効率的な新規化合物の探索法の開発には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)次世代シーケンサーによるゲノムワイドな転写シークエンスによる複合培養時特異的発現遺伝子の同定 S. coelicolor A3(2)を用いた、複合培養時のmRNAの調整法など、Mi-Seqを用いたRNA-seq解析の技術的な部分において安定したデータを得られるようになった。また、複合培養の際のミコール酸含有細菌の種類や植菌量の違いにより変動遺伝子の数や種類、量が大きく変化することも明らかになった。一方、前培養での生育状態の違いが、複合培養時の応答に反映し、mRNA発現パターンに大きな影響することがわかり、特に本年度目指した複合培養開始30分後など極初期の転写発現変動から初期応答に関与する遺伝子を同定しようとした場合、前培養時の生育状態が大きく影響し、明確な差異を得られるまでに至らず、また変動した遺伝子からその機構を予想することは出来なかった。 (2)複合誘導時に特異的に誘導される二次代謝生合成遺伝子プロモーターの転写調節機構の解明 研究計画ではS. lividansを用いた異種発現でのゴードスポリン生合成遺伝子内のgodAプロモーターを用いた転写調節機構の解明を試み、5’-RACEや部位特異的変異導入によりプロモーター配列を同定したが、HrdBのコンセンサス配列を示し、他の制御因子の介在が考えられた。しかしながら、その制御因子の同定には至っていない。一方、S. nigrescensとT. pulmonisとの複合培養により複合培養特異的に生産する5a-THQの系を用いたRT-PCRによる転写解析からも、複合培養時に特異的に転写が活性化することが明らかになったので、今後は本系も合わせて、プロモーターの同定などその制御機構を解析する。 (3)複合培養の統合深化による効率的な新奇抗生物質の探索 本年度も複合培養によりniizalactams A-Cを発見し、学術誌に発表した。しかしながら、複合培養の統合進化による効率的な新規化合物の探索法の開発には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究の最終年度にあたるが、引き続き網羅的転写解析を行い、複合培養時に特異的に発現し、二次代謝に直接的に関与する遺伝子の同定を目指す。また初期応答だけではなく、大規模に二次代謝の活性化までの経時的な遺伝子発現変動も解析し、どのような遺伝子の発現変動を経て二次代謝の活性化につながるかも解析する。またR. erythropolis以外のミコール酸含有細菌との複合培養時や、ミコール酸含有細菌以外の細菌との共培養における転写の比較解析を行うことにより、データの信頼性を高め、複合培養時に普遍的に転写量が変化する遺伝子の同定を行いたい。 複合培養時に特異的に生産される新規化合物の探索についても引き続き取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNAシーケンスが予定通り進まなかったため、解析に必要な消耗品を繰り越した
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度間に合わなかったRNAシーケンスを進めるために使用する
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