研究課題
基盤研究(B)
有機質肥料活用型養液栽培は土耕栽培と比べ根圏の観察・サンプル採取が非常に容易でありながら、土壌と同じように有機質肥料を分解し硝酸を生成する特徴を備えるため、根圏の世界を解明する重要な研究材料として注目されている。栽培前の培養液の微生物群集構造をDGGE法により解析したところ、土壌と同様の硝化能を有しながら比較的シンプルな微生物相を形成し、解析の容易な系であることが明らかとなった。通常は増殖が極めて遅いとされるアンモニア酸化菌Nitrosomonas属細菌、亜硝酸酸化菌Nitrobacter属菌が、2~3週間程度のごく短期間に増殖することが明らかとなった。マイクロトム(研究用トマト品種)を有機質肥料活用型養液栽培で栽培し、その根圏のバイオフィルムを採取して微生物相の推移を解析したところ、定植前、定植直後、それ以降の3期間で大きく異なることが分かった。バイオフィルム内には硝化菌としてNitrobacter属、Nitrococcus属、Nitrospira属、Nitrosospira属、Nitrosococcus属、Nitrosomonas属が0.01%以上の存在比で確認でき、特に亜硝酸酸化菌であるNitrobacter属は、いずれのフェイズでも0.4~0.9%程度の非常に高い割合で存在することが確認された。環境メタゲノムデータセットとの比較では、本栽培の菌叢はどの環境メタゲノムとも親近性は低く、独特な菌叢を形成していることが示唆された。バイオフィルムから微生物を単離培養し、それぞれについて検討したところ、根部病害病原菌Fusarium oxysporumに対する増殖抑制効果は単独では示さないものの、複数の菌株を混合培養したものではF. oxysporumに対する増殖抑制効果が現れるなど、これまでの拮抗菌の研究では知られていない興味深い現象が確認された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、栽培前および栽培期間中の微生物相の推移をメタゲノムで解析するなど、順調に研究は推移している。その過程で、事前に想定していなかった興味深い成果が複数得られたので、当初の計画以上に進展していると判断した。下記に特に注目される成果を列挙する。・硝化菌は従来、10の4乗 cfu/g程度の超低菌密度までしか増殖しないとされてきたが、本栽培におけるバイオフィルム内ではNitrobacter属菌が10の8乗~10の9乗 cfu/g存在すると推定された。本栽培技術が極めて高い硝酸化成能を証明するデータとして注目される。この高い硝化特性は今後、効率的な人工土壌創出や、有機質資源から無機肥料を製造する技術への転用などにも役立つ重要な技術的利点であると考えられる。・根部病害抑制効果についても、従来の拮抗菌研究に一石を投じるデータが得られた。従来の拮抗菌研究は単離培養した微生物で病原菌を抑制しようという思想を前提としてきたが、多様な微生物が生息する農業現場に投入すると土着微生物に駆逐され、効果を示さないことがほとんどであることが課題であった。今回の成果では、バイオフィルムから単離培養した微生物を単独で病原菌に供しても抑制効果を示すものはないにも関わらず、それらを複数種、混合培養すると抑制効果を示すようになることが示された。このことは、従来の拮抗菌研究が単離培養微生物だけを研究対象としてきたことに対し、大幅な戦略見直しを迫るものである。以上のように、これまでに知られていなかった成果が着々と得られつつあり、当初の計画以上に進展していると考えている。
計画通り、微生物、植物、病原菌、メタゲノムの4つの視座から解析を進める。その際、すでに得られたメタゲノムの情報を基に、タンパク質分解に関わる酵素など機能別に遺伝子を解析し、バイオフィルム総体としてどのような機能が維持され、推移していくのかを解析する。
当初の予定より効率的な予算執行に努めたため、次年度使用額が生じた。従来のメタゲノム研究では確認されていない現象である、硝化菌の高菌密度集積が見出されたため、本年度の未使用額を次年度に繰り越して、さらに次世代シークエンスによるメタゲノム解析を行い、重点的に解析することとした。微生物資材のうち良好な成績を収めるものとそうでないものとの違いを明らかにするため、サンプルからDNAを抽出し、次世代シークエンスによるメタゲノム解析に供する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件) 備考 (3件)
Japan Agricultural Research Quarterly
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MicrobiologyOpen
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