研究課題/領域番号 |
25292054
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
篠原 信 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 野菜茶業研究所 野菜病害虫・品質研究領域, 主任研究員 (90326075)
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研究分担者 |
加藤 康夫 富山県立大学, 工学部, 教授 (20254237)
荻田 信二郎 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50363875)
野村 泰治 富山県立大学, 工学部, 講師 (40570924)
小川 順 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70281102)
安藤 晃規 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (10537765)
宮本 憲二 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (60360111)
吉田 昭介 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (80610766)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 根圏微生物 / 硝化菌 / Nitrobacter / Nitrosomonas / 根部病害抑制 / メタゲノム / 菌叢 / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
効率的な硝化を実現する微生物資材を開発すべく検討したところ、Bacillus badius、Nitrosomonas europaea、Nitrobacter winogradskyiの3菌株を与わせることで有機物(ペプトンや酵母エキス)を出発物質として硝酸を生成することが分かり、微生物資材のデザイン化の可能性が示された。 硝化菌は有機質肥料活用型養液栽培の培養液で突出して集積する(全微生物の0.4~0.9%、菌密度にして10の9乗~10の10乗cfu/g)ことから、従来困難とされる硝化菌の単離培養を試みた。その結果、比較的容易にN. winogradskyiが容易に分離された。ただしAlicycliphilus sp.が伴生しやすく、本菌は硝化菌と強固な関係を構築している可能性が示唆された。 硝化菌が有機成分により活性を失う現象を解析したところ、亜硝酸酸化菌N. europeaは12種類のアミノ酸、2種類の有機酸で、N. winogradskyiは5種類のアミノ酸、2種類の有機酸で活性が阻害されることが明らかとなった。 メタゲノム解析により、バイオフィルム内での硝化菌の活動の推移を調べたところ、培養液中のアンモニア濃度がピークを迎えた後、アンモニア酸化酵素(amoA)の遺伝子発現が増え、亜硝酸酸化酵素(norB)は亜硝酸濃度がピークを迎えた後、急激に増加することが明らかとなった。pHを調整するとそれぞれの遺伝子発現が早まるとともに活性化することが示されたことから、pH調整による硝化促進が遺伝子の面からも確かめられた。 有機質肥料活用型養液栽培の生産上の安全性を確認するため、食中毒菌である大腸菌やサルモネラを調べたところ、バイオフィルム中に含まれないことが判明した。また、培養液中に大腸菌O157やサルモネラを接種しても速やかに検出限界以下になることが確認され、高い安全性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
・特定の微生物だけで(有機物を出発物質とする)硝酸生成を実現できたことは、今後の土壌学の発展に寄与するところ大である。これまで、有機物を出発原料として硝酸を生成するには土壌を用いるしかなく、無数の微生物が混在する土壌微生物では解析が極めて困難であったことが、土壌学の発展に大きな阻害要因であった。今回、Bacillus badiusとアンモニア酸化菌、亜硝酸酸化菌の3菌株のみで硝酸化成を実現できたことで、「土壌微生物エレメント」を作出する可能性が示された。 ・硝化菌がどのような有機成分で阻害されるのかが明らかになったことは、硝酸生成を迅速化する微生物デザインを行う上で重大な知見である。硝化菌が有機成分の暴露により活性が阻害されることは従来、経験的に知られていたが、どのような成分で阻害されるのかはこれまで十分明らかではなかった。阻害作用をもたらす有機成分が明らかになったことにより、硝化菌へのダメージを最小限にする微生物デザインが可能になると期待される。 ・メタゲノム解析により、硝化菌がバイオフィルム内においてどのような挙動を示すのか、解析できたことは大きい。硝化菌は自然界では通常、菌密度が非常に低く、解析が非常に困難な微生物であった。しかし有機質肥料活用型養液栽培では硝化菌がバイオフィルム中の全微生物(10の11乗~10の12乗 cfu/g)のうち0.4~0.9%と高密度に集積しており、メタゲノム解析によりその消長が植物の生育ステージに合わせて解析できたことは画期的である。 以上のように、これまで知られていなかった成果が着々と得られつつあることから、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
特定の微生物だけで構成した微生物資材が、繰り返し硝酸生成を進めることができるのか、検討する。硝化菌がダメージを受ける有機成分をさらに調査し、そのダメージを緩和する方法を検討する。複数種の植物を栽培し、それぞれの根圏微生物を採取してメタゲノム解析を行うことで、植物種によって根圏微生物で形成される微生物相に影響が出るのか、解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物病理の実験用試薬が予定と比べ比較的安価に入手できた。
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次年度使用額の使用計画 |
植物病理の研究をさらに促進するため、微生物保存機関から試験用の微生物を追加購入する資金に充てる。
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