微生物産生ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を環境低負荷型高分子素材として実用化するには、物性の優れた共重合PHAを低コストで生産する必要がある。本研究では次世代型の新規バイオプラスチック生合成技術の開発を目的とした。 1) 前年度までに作製した水素細菌Ralstonia eutropha ポリ(3-ヒドロキシブタン酸-co-3-ヒドロキシヘキサン酸)[P(3HB-co-3HHx)]生合成株はアセトアセチル-CoAレダクターゼPhaB1の欠失によって高3HHx分率を達成していたが、本株のグリセロール培養ではポリエステル生成量が大幅に減少した。これはグリセロール炭素源ではパラログであるPhaB3の発現が抑制されるためと推測し、PhaB1を欠失ではなく部位特異的変異により取得した低活性変異体2種への置換を行った。その結果、グリセロール炭素源における生産量の大幅な増加はなかったものの、1つの変異体においては3HHx分率が23 mol%に増加し、PhaB1の部位特異的変異による基質特異性の変化による効果が示唆された。このPhaB1変異体は今後のP(3HB-co-3HHx)生合成株の確立に有用である可能性が考えられる。 2) R. eutrophaでの知見を基に確立した組換え大腸菌Escherichia coliのP(3HB-co-3HHx)生合成株についてモノマー供給経路の詳細を検討した。その結果、C6の3HHxユニットへの伸長は予想に反して、(S)-3HB-CoAではなく(R)-3HB-CoAから生じたブチリル-CoAを前駆体とした伸長反応により生成していることを明らかにした。またE. coli非必須遺伝子破壊株コレクションから各種糖代謝変異株を取得し宿主としたところ、PHA生産量が増加するものの3HHxユニットがほぼ導入されない興味深い変異を見出した。
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