研究実績の概要 |
本年度は以下の研究を行った。 (1)細胞性粘菌セリンラセマーゼは基質であるD-,L-セリンと反応して次第に活性を失うが、完全には失活しない。重水中では失活速度が上昇したことから、この現象は基質2位の水素が酵素によって引き抜かれ生成したアニオン性の中間体が酵素の活性中心近傍の残基を修飾する事により起こると予想された。失活反応に際して吸収スペクトルにはほとんど変化が見られず、酵素とPLPとのシッフ塩基は維持されると考えられた。分裂酵母のセリンラセマーゼの結晶解析において活性中心リジン残基が D-アラニンによって修飾された構造が見出されているが、これは上記反応により生じたと推測される。 (2)他の研究グループから、D-Aspの添加が皮膚繊維芽細胞の抗酸化性を上昇させるとの報告がなされたが、今の所その続報はない。我々はこの現象の追試を行い、macrophage cellを用いてD-Aspの抗酸化性を確認するとともに、D-Aspの培地への添加により、抗酸化系の遺伝子発現にかかわる転写因子であるNrf2と抗酸化機能を有するヘムオキシゲナーゼ(HO-1)が誘導されることを見出した。 (3)我々はD-セリンをピルビン酸とアンモニアに分解する新酵素、Fold-type III型D-セリンデヒドラターゼを見出し、そのD-セリンに対する高い特異性を利用してD-セリンの酵素定量法を構築した。本年度はこの方法を改良し、D-セリンから生成したピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼで酸化し、その際生成する過酸化水素を鉄イオンを介してキシレノールオレンジによって測定する方法を確立した。この方法によって、96穴プレートを用いて尿中の D-セリンのアッセイが可能となった。またこの方法を用いてヒト尿中 D-セリン濃度と腎臓疾患の関連について検討した。 (4)D-アミノ酸ペプチドを認識する細菌の転写制御因子を見出した。
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