研究課題/領域番号 |
25292060
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷 史人 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70212040)
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研究分担者 |
阿部 賢太郎 京都大学, 生存圏研究所, 准教授 (20402935)
矢野 浩之 京都大学, 生存圏研究所, 教授 (80192392)
桝田 哲哉 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80311744)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ストレスタンパク質 / 粘膜 / 免疫 / ビフィズス菌 / 制御性T細胞 / 相利共生 / 機能材料 / ナノファイバー |
研究実績の概要 |
アレルギーや動脈硬化などの炎症性疾患を予防するためには根源的な腸管粘膜組織の免疫恒常性を的確に制御することが望まれるが、その手段は確立されていない。本研究では、生体防御へのHSPsの多機能性に着目し、腸管粘膜組織の上皮細胞や抗原提示細胞、T細胞の機能制御に対するHSPsの作用と分子多様性の意義を解明する。平成26年度では、腸管粘膜免疫系のT細胞活性化に対するストレスタンパク質(Heat Shock Protein; HSP)の抑制作用について調べた。特に、相利共生する腸内細菌に着目し、ビフィズス菌由来のHSPの生理作用に焦点を当てた。まず、有用なプロバイオティクスとしてはたらくビフィズス菌のGroELの遺伝子をサブクローニングした。大腸菌でタンパク質を誘導発現後、精製し、ビフィズス菌由来GroELを調製した。次に、HSP(大腸菌GroEL、マウスHsp60、ビフィズス菌GroEL)を抗原負荷させたマウスの骨髄由来樹状細胞とマウスの脾細胞由来naive T 細胞を、IL-10及びTGF-β存在下で共培養したところ、培養期間3日ではCD4+CD25+Foxp3+ 制御性T細胞(Treg)の存在率に関して、HSPに特徴的な差異を認めることはできなかった。しかし、培養期間6日ではHSP添加により、Tregの存在率が上昇することを観察した。この結果から、3種類のHSPにはTreg誘導に関わるエピトープが存在し、ペプチド断片を抗原提示細胞に提示させることにより、Treg誘導に関わることが示唆された。一方、予期せずして、増殖刺激下でのT細胞に対するストレスタンパク質の抑制作用を見出した。マウス脾臓のCD4+CD25- T細胞を、抗CD3/CD28抗体によるT細胞増殖刺激下で、HSP存在下あるいは非存在下において48時間培養したところ、HSP存在下において、IL-2産生量及び細胞増殖、CD25の発現がそれぞれ抑制された。本結果は、CD4+CD25+ Tregを介さずにHSPが直接的に作用し、T細胞の活性化を抑制することを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
相利共生する腸内細菌のビフィズス菌由来GroELにおいて非常に興味深いの生理作用を見出しつつある点は進展が見られたと判断できる。真正細菌である大腸菌や自己のマウス由来のHSP60とともに、制御性T細胞(Treg)の産生誘導を示す作用をもつことを明らかにし、さらに、抗原提示細胞への作用においては他のHSPとは性質が異なるという重要な示唆を得ている。また、予期せずして、増殖刺激下でのT細胞に対するストレスタンパク質の抑制作用を見出した点も評価できる。一方で、組織特異的なTregの調製や生理作用の解析とHSP多様性を識別する受容体分子の同定は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の最終年度においては、まず、ビフィズス菌GroELが未熟な抗原提示細胞の分化・教育に他のHSPとは異なる作用を示す点を明らかにする。次に、ビフィズス菌GroELを用いてHSP応答性T細胞を誘導し、その組織特異性等を検討するとともに、2型糖尿病などの炎症性疾患の進行を軽減するのか否かについてin vivoで検証する予定である。また、粘膜免疫細胞へのHSP抗原負荷に対してセルロースやキチンナノファイバーがアジュバント効果を示すか否かについても検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞の表面抗原の解析に必要なフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン社製Accuri C6)の機器を次年度においても引き続きレンタルするため。
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次年度使用額の使用計画 |
遅れている実験にかかる組織特異的なTregの解析やHSP多様性を識別する受容体分子の同定のためにおよそ5か月にかけて使用する予定である。
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