研究課題/領域番号 |
25292067
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
蔡 晃植 長浜バイオ大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (00263442)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 植物免疫 / 分子間相互作用 / エフェクター / ETI / プロテインキナーゼ / 細胞内情報伝達 / ゲノム配列 / PAMP |
研究実績の概要 |
植物の免疫システムの一つであるETI(Effector-triggered immunity)の誘導は、病原菌感染の成立・不成立を左右する重要なステップである。本研究は、イネと植物病原細菌Acidovorax avenaeを用いて、植物による病原細菌認識とETI誘導の分子機構を明らかにすることを目的とする。これまでの研究で、A. avenaeのイネ非病原性N1141菌株のトランスポゾンタギング変異体ライブラリーを用いてEFS以外のエフェクタータンパク質として、IPPTというタンパク質を新たに同定した。そこで、平成26年度はまず、IPPTによるETI誘導機構を明らかにするため、IPPT遺伝子欠損変異体を作成した。この遺伝子変異体は非宿主のイネに対してはETI反応のひとつであるイネの過敏感細胞死を誘導できず、宿主のシコクビエに対しては病徴を形成できなかった。さらに、このIPPTタンパク質の植物細胞内への輸送についてCYA融合タンパク質を作成して調べたところ、IPPTはTypeIII分泌装置を介してイネ細胞内に分泌されていることが明らかになった。興味深いことに、イネ病原性K1菌株もイネ植物細胞内に分泌されるIPPTを有しているが、K1菌株のIPPTはイネの過敏感細胞死を誘導できないことが示された。 また、IPPT以外のETI誘導関連タンパク質の同定とN1141菌株による特異的ETI誘導機構を明らかにするため、N1141菌株とK1菌株の全ゲノム配列の解析を行った。次世代シーケンサーを用いた配列解析と、アラインメントを行なったところ、N1141菌株のゲノムは、5,328,578bpで構成されており、この中に4,787個の遺伝子領域が存在しており、K1菌株のゲノムは、5,387,858bpで構成されており、このゲノム内に5,138個の遺伝子領域が存在していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度は、本研究により明らかにしたIPPTが実際にエフェクターとして機能しているかどうかを明らかにすることを主たる目的とした。平成26年度は、IPPT欠損株を作成し、この欠損株が宿主に対しては病徴誘導能を失っていること、非宿主に対しては免疫誘導能を失っていることを明らかにした。また、N1141、K1菌株のIPPT共に、TypeIII分泌装置を介して植物細胞内に分泌されることを明らかにし、このIPPTが実際にエフェクターとして機能することを示すことで当初の目的を達成することが出来た。また、当初予想していなかったが、K1菌株のIPPTは植物細胞内に輸送されても植物のETI反応を誘導しないことが示された。両IPPTは翻訳修飾されず、また両IPPT間には13アミノ酸の置換のみが認められることから、IPPTの種特異的なETI誘導にはこの13アミノ酸の置換が関与する可能性が示された。このことから、N1141菌株のIPPTとのみ結合する分子を探索することで、これまでに例のない、種特異的なエフェクターによるETI誘導の分子機構を明らかにすることが可能となった。 また、当初は計画していなかったが、研究の進展と共にN1141菌株とK1菌株の全ゲノム配列に関する知見を得ることにより、本研究をより効果的に遂行できる可能性が示された。そこで、両菌株の全ゲノムを次世代シーケンサーで解析し、両ゲノムの完全な配列を得ることが出来た。この結果、両菌株のゲノムサイズが若干異なること、また含まれる遺伝子が異なることが明らかになり、それぞれ特異的に存在する遺伝子が特異的エフェクターをコードしている可能性を初めて示すことが出来た。これらのことから、本年度は当初の予想を超えた研究成果を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究で、トランスポゾンタギングにより作成したA. avenaeのイネ非親和性N1141菌株の変異体を用いてEFS以外のエフェクタータンパク質として、IPPTというタンパク質を新たに同定した。また、このIPPT遺伝子欠損変異体はイネのETI反応を誘導できないことと、このIPPTタンパク質がTypeIII分泌経路を介して植物細胞内に分泌されていることを明らかにした。さらに、イネ親和性K1菌株のIPPTもイネ植物体に分泌されるが、K1菌株のIPPTは過敏感細胞死誘導能を持たないことも示した。そこで、平成27年度はイネ細胞内でN1141菌株と相互作用するが、K1菌株のIPPTとは相互作用しない特異的結合タンパク質を酵母Two-hybrid法やBiFC法、免疫沈候法等を用いて同定する。次に、この結合タンパク質の欠損株をイネ変異体ストックコレクションから取得し、この突然変異体にIPPTを発現させたときにETI反応が誘導されないことを確かめる。もし、この結合タンパク質欠損イネが取得できなかった場合、RNAiノックダウン体を作成して、IPPTによるETI誘導の低下を確認したい。同時に、この変異体を用いてIPPT受容シグナルの細胞内伝達についても、カルシウム依存性プロテインキナーゼやMAPキナーゼカスケードを中心に調べる。 また、平成26年度までにイネにETIを引き起こすN1141菌株とETIを誘導しないK1菌株の全ゲノムを明らかにすることが出来た。そこで、平成27年度はこの二つのゲノムを比較し、異なる遺伝子を探索し、この遺伝子の欠損株を作成することで、これら遺伝子のETI誘導への関与を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究で、IPPT以外のETI誘導関連タンパク質の同定とN1141菌株による特異的ETI誘導機構を明らかにするため、A. avenaeのN1141菌株とK1菌株の全ゲノム配列の解析を行った。この配列解析は、次世代シーケンサーを用いて行うことを予定しており、その費用を予算計上した。本年度研究で次世代シーケンサーを用いた解析を行ったが、他大学に設置されている次世代シーケンサーを共同利用することが出来たため、次世代シーケンサーを用いた実験をほぼ無償で行うことが出来た。一方、最終年度に本研究の予想以上の進捗と共に、新たに変異体植物を用いた研究解析が必要になった。そこで、この変異体植物の取得と作成および解析に使用するための費用として、次年度使用額が生じることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、イネ細胞内でN1141菌株と相互作用するが、K1菌株のIPPTとは相互作用しない特異的結合タンパク質を酵母Two-hybrid法やBiFC法、免疫沈候法等を用いて同定しその結合様式を解析するための物品費として使用する。また、この結合タンパク質の欠損株の取得やRNAiノックダウン体の作成、およびその解析のための物品費としても使用する。このような実験を行うためには、専門の知識を有する研究補助員を雇用することが必要となったため、人件費や謝金としても使用する。
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