研究課題
転写共役因子PGC1α(Peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)γ coactivator 1α)は、骨格筋等において運動により発現増加し、ミトコンドリアの生合成・筋線維タイプの変化・脂肪酸酸化促進など、エネルギー代謝や運動に関連する遺伝子発現を活性化することが知られている。PGC1α過剰発現マウスにおけるマイクロアレイ解析を完了した。PGC1α-Tgマウスで発現増加した遺伝子についてバイオインフォマティクス解析を行った。その結果、これまでにPGC1αとの関連が知られていなかった分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acids;BCAA)代謝経路が検出された。骨格筋におけるPGC1αはBCAA代謝に貢献し、運動により生じるPGC1αの発現増加はBCAA代謝に関与している可能性が示唆された。一方、Forkhead box O1(FOXO1)は転写因子であり、インスリンシグナルを負に制御することが知られる。我々はこれまでに、エネルギー欠乏状態においてFOXO1遺伝子の発現が骨格筋で著しく増加し、骨格筋特異的FOXO1過剰発現マウス(FOXO1 Tgマウス)では、骨格筋萎縮が生じることを示した。本研究において、FOXO1がグルタミン合成酵素遺伝子を発現制御することが明らかとなった。FOXO1によるグルタミン合成酵素の発現促進は、異化時に生成されるアンモニアの消去にも役割を果たす可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、運動が身体にどのように良い効果を与えるかという分子説明を可能とした点について学術的な価値がある。すなわち、BCAAは運動時の骨格筋の重要なエネルギー源であり、サプリメントとしての需要が高まっている。しかし、運動時にどのようなメカニズムでBCAA利用が生ずるかは不明であった。本研究において、運動とBCAA利用をつなぐ欠けたピース「missing link」がPGC1αであることを発見した。これは運動生理学のみならず、機能性食品の開発等の応用にとっても重要な知見であると考える。これは運動が、どのように生活習慣病を予防・改善するかという分子的な説明を与え得るものであり、今後の機能性食品の開発につながるものである。本研究は、当初の研究計画をおおむね順調に推進し、本年度中に複数の論文発表および学会発表をすることが出来た。また本研究に関する学会発表を行なった大学院生が計4回表彰を受け(うち1回は国際学会における表彰)、加えて日本栄養食糧学会にてトピックス演題として選出された。加えて、本研究を遂行する過程で、当初予想していなかった興味深い研究成果を得ている。
本研究では転写調節因子であるFOXO1とPGC1αによる骨格筋アミノ酸代謝を解析し、アミノ酸代謝と密接に関連する筋萎縮・肥大について分子機序を明らかにすることを目指し、以下の実験を行う。(1)遺伝子改変マウスのDNAマイクロアレイによる発現変動解析、骨格筋特異的なFOXO1、PGC1αの遺伝子改変マウスのDNAマイクロアレイ解析を行い、FOXO1、PGC1αの標的遺伝子候補を抽出する。(2)PGC1αによるアミノ酸代謝(BCAA分解)の機能解析、代謝産物の変動を測定した。BCAAを投与する事により、持久的運動能力が野生型マウスに比べて向上するか否かを検討する。(3)指標アミノ酸酸化法におけるタンパク質必要量の測定、指標アミノ酸酸化法のマウス実験系の確立を行ない、制限アミノ酸の必要量を測定することを試みる。(4)メタボローム解析、PGC1αおよびFOXO1遺伝子改変マウスの骨格筋のメタボローム解析(アミノ酸類の測定が可能なCE-TOF-MS解析)を施行する。(5)筋萎縮および筋肥大の分子機序の解明に関する研究、PGC1α欠損マウスにBCAA投与や運動刺激等を与え、BCAA代謝および筋肥大・萎縮の表現型およびシグナル(mTOR活性)を検討する。また、FOXO1とFOXO3aおよびFOXO4遺伝子を骨格筋で欠損させるトリプルノックアウトマウスの作出を行なう。
マイクロアレイ用のサンプルの調製を完了し、マイクロアレイチップを最終年度に購入して解析する予定である。
マイクロアレイ、次世代シーケンサー、メタボロームなどの網羅的解析に使用する。さらに遺伝子改変マウスの表現型の解析に使用する予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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