研究実績の概要 |
我が国の血栓性疾患による死亡者数の総計は、がんによる死亡者数にほぼ匹敵し、予防法の確立が急務となっている。血栓の形成には、血小板と血液凝固系が関与している。これまでに我々は、ガーリック由来香気成分diallyl trisulfide (DATS)が血小板凝集を抑制することを明らかにし、報告してきた。外因系凝固の開始因子tissue factor (TF) は、アテローム性動脈硬化を基盤とした血栓性疾患の引き金となっている。したがって、TFは血栓性疾患の予防において重要な分子標的と考えられる。本研究では、DATSの抗血栓作用を明らかにする目的で、DATSがTFの発現と活性に及ぼす影響について検討した。DATSがTF発現に及ぼす影響は、ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC)をモデルとして検討を行った。DATSを30分間前処理したHUVECにTNF-αを添加し、TF発現を誘導した。TNF-α添加2, 4, 6時間後のmRNAの発現をreal-time PCRを用いて測定した。さらにTNF-α添加3, 6, 9時間後のTFタンパク質発現をwestern blottingにより解析した。またTF活性の測定には、ヒト急性前骨髄球性細胞HL60をモデルとして用いた。HL60細胞にPMAを添加培養してTF発現を誘導後、HgCl2を用いてTFを活性化した。さらに活性化TF発現HL60 に血漿を添加してフィブリンクロット形成時間を測定し、TF活性を評価した。HUVECにTNF-αを添加培養するとTF mRNA発現が誘導され、その発現は添加後2時間で最大となり、その後経時的に減少した。DATSは、HUVECにおけるTF mRNA発現と、TFタンパク質発現の両者を抑制した。またDATSは、HgCl2により活性化したHL60細胞由来TFによるフィブリンクロット形成時間を遅延させた。ガーリック由来香気成分DATSは、炎症性サイトカインによるTF 発現の誘導と、TF活性の両方を抑制することにより、抗血栓作用を示す可能性が明らかになった。
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