研究課題
平成27年度において本研究では、同定されてきたSeP受容体の発現パターンとその機能解析を進めた。高親和性受容体の存在が示唆されたヒトTリンパ球由来Jurkat細胞とヒト神経細胞由来SH-SY5Y細胞、また低親和性のヒト横紋筋由来RD細胞、マウス膵β細胞由来MIN6細胞およびマウス骨格筋由来C2C12細胞について、SeP受容体の発現をmRNAレベル及びタンパク質レベルで比較した。ヒトおよびマウスSeP受容体のsiRNA系を構築し、各細胞において機能しているSeP受容体を明らかにした。未知のSeP受容体の同定については、これまでに確立したSeP-受容体複合体を免疫沈降できる抗体を用い、複合体の大量調製後、免疫沈降法を用いて分離し質量分析法による同定を試みた。得られた解析結果から、受容体候補となる分子を見いだした。今後、siRNA系により詳細を明らかにする予定である。今年度はさらにin vivoでの検討を進めた。ヒトSePをマウスに投与し、各臓器におけるSePの取り込みおよびセレン運搬作用を評価する系を構築した。ヒトSeP投与マウスの臓器ホモジネートを作成し、得られた可溶性タンパク質画分をWestern blot法により解析した。各臓器由来タンパク質をSDS-PAGEにより分離後、SePおよび各セレノプロテイン特異的抗体を用いて各タンパク質を検出できる条件を検討した。その結果、肝臓や膵臓、筋肉、脳において、取り込まれたヒトSePを検出する条件を確立出来た。また、筋肉においては、GPx1の評価によりSeP投与に伴うセレノプロテインの増加が評価出来ることが分かった。今後、SeP受容体の役割について、in vivoでの検討を進める。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、前年度までに明らかにした低親和性・高親和性の培養細胞のSeP受容体を詳細に比較し、各細胞における受容体の発現パターンを明らかにすることが出来た。さらに、複数の受容体についてsiRNA系を構築する事ができ、SePの細胞内取り込みおよびセレン運搬に寄与する受容体を同定することが出来た。生体のセレン動態を考察する上で、非常に重要な知見がえられ、セレン運搬機構の全容解明を目指す研究基盤を構築出来たと考える。また、未知のSeP受容体の同定については、SeP受容体複合体の免疫沈降から質量分析系での解析まで進めることができ、有力な候補分子を同定するまでに至った。今後、siRNA系などを用い、その役割について粘り強く検討を続けていきたいと考えている。さらに今年度は、培養細胞での知見を踏まえin vivoでの検討を行うための動物モデル系の構築も進めた。実験が首尾良く進み、各臓器におけるSeP取り込みを検出する系の構築に成功した。以上の達成状況から、本年度は当初の計画どおりに進展していると評価した。
本研究では、SeP受容体の同定に加え、SePに含まれるセレンがどのようにして細胞内のセレン含有タンパク質に取り込まれるか、またセレン運搬後のSePの構造変化を明らかにし、SePによるセレン運搬作用の全貌の解明を目的としている。本年度の検討により、上記課題を遂行するための研究基盤が確立でき、さらにin vivoでの検討を可能にする実験系構築まで至った。今後、未知受容体については生物機能を確認し、高親和性・低親和性のセレン運搬機構を分子レベルで理解する詳細な検討を進めていきたい。セレン運搬作用のメカニズム解析については、アウトラインが出来ており、本研究の進展に大きな問題は無いと考えている。また、最終年度はセレン運搬後のSePの構造変化についての解析も進めていきたい。
事務処理上残額として生じたが、ほぼ予定通り使用した。
次年度、全額使用する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
細胞工学
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