研究課題/領域番号 |
25292080
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山路 恵子 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (00420076)
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研究分担者 |
田村 憲司 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70211373)
升屋 勇人 国立研究開発法人森林総合研究所, 東北支所, 森林微生物管理担当チーム長 (70391183)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 内生菌 / 樹木実生 / 放射性セシウム / 重金属 |
研究実績の概要 |
東日本大震災後に伴う福島第一原子力発電所での爆発事故により、環境中には多量の放射性核種が放出された。森林生態系において、微生物は様々な植物と共生系を築き、森林生態系の基礎となる重要な存在として知られているが、放射性核種は微生物の群集構造や挙動に影響することが知られている。植物と微生物の共生関係の特徴的なものとして、重金属環境における共生系があるが、本研究では、重金属環境で形成されるリョウブと内生菌の共生関係に着目し、本相互作用が放射性核種によりどのような影響を受けるのか解明することを目的とした。具体的には、放射性セシウムの濃度及び重金属濃度の異なる6か所の調査地を設定し、リョウブ内生菌相やその化学的機能を分析した。得られた結果を基に、放射性セシウムや重金属が内生菌に与える影響を、nMDS及びGLMM等の統計学的解析に基づき評価した。内生菌の化学的機能の分析項目は、1 リョウブの重金属耐性に関与すると考えられる重金属錯体形成物質産生能、2 放射線及び重金属ストレス環境下での菌の耐性・定着に関与すると考えられるメラニン色素産生能、とした。nMDS解析の結果、リョウブの内生菌相は、重金属や放射性セシウム濃度の影響を受け変化する可能性が示唆され、本研究調査地の重金属環境の内生菌相は重金属濃度により主要な影響を受けていることが明らかとなった。また、GLMM解析の結果、重金属環境の調査地に含まれる放射性セシウムの影響により、重金属耐性に関与する重金属錯体形成物質の産生やメラニン色素の産生が増加する菌種の存在も示唆された。以上のことから、本調査地における重金属環境においてリョウブの内生菌相は維持され、内生菌の化学的機能は放射性セシウムの影響は受けるがリョウブの重金属耐性を高める可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射性セシウムが、重金属環境で生育する樹木実生リョウブと内生菌との共生関係に与える影響を明らかにすることができた。nMDS解析の結果、リョウブの内生菌相は、重金属や放射性セシウム濃度の影響を受け変化する可能性が示唆され、本研究調査地の重金属環境の内生菌相は重金属濃度により主要な影響を受けていることが明らかとなった。また、放射性セシウムの影響により、重金属耐性に関与する重金属錯体形成物質の産生やメラニン色素の産生が増加する菌種の存在も示唆された。以上のことから、本調査地における重金属環境においてリョウブの内生菌相は維持され、内生菌の化学的機能は放射性セシウムの影響は受けるがリョウブの重金属耐性を高める可能性があると考えられた。足りない点としては、リョウブと内生菌の接種系における放射性セシウムの影響を行っていないことがあげられ、今後遂行する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの現地データを基に、リョウブと内生菌の共生関係への放射性セシウムの影響について、基礎的知見を得ることができた。今後の研究としては、1 リョウブと内生菌の接種系における放射性セシウムの影響、2 内生菌の成長や化学的能力に対する放射性セシウムの影響、を解明する必要があるであろう。その際には、ガンマー線による照射実験を各試料に対して行う。以上の実験を通じて、これまで得られた現地データの裏付けデータを得ることが出来ると推測され、これまでのデータからの考察を強めることが出来るのではないかと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コバルトを線源としたガンマー線照射を用いて、菌株や植物-内生菌共生系への影響を評価する試験が遅れている。大きな理由として、1 本研究の試料に対してガンマー線照射を行うことが可能な照射施設を見つけることが困難であったこと(線量の強度や生物試料の受け入れなどの点)、2 受け入れを許可して頂いた照射施設では、照射段階の設定に予備試験を必要としなければならなかったこと、などがあげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の使用計画は、以下である。1 野外の放射性セシウムの土壌濃度の状況を考慮して、照射段階としては3段階の強度を設定する。2 照射は、(1) 分離した内生菌、(2) 内生菌を接種したリョウブ、の試料に対して行う。反復試料も設定する。3 照射後、照射をした菌株の(1) 成長量への影響を確認し、培養、抽出、分析等の手法により、(2) 重金属解毒物質産生能への影響、(3) メラニン産生能への影響を明らかにする。最終的には統計解析により解析・評価を行い、これまでに得られた現地データとともに総合的な考察を行う。
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