研究課題/領域番号 |
25292082
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保田 耕平 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (30272438)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 森林昆虫 / ルリクワガタ属 / 共生微生物 / 酵母 / 共進化 / 遺伝子解析 / 遺伝子交流 / 環境適応 |
研究実績の概要 |
日本産ルリクワガタ属について、全種全亜種を含む48サンプルのRADシーケンス解析を完了した。その結果、極めてトポロジーの信頼性の高い系統樹を構築することができた。これらは既知の分類体系とほぼ一致し、個々の分子マーカーの解析結果でみられる分類体系との不一致点の多くは解消されていた。このことはRADシーケンス法のもつ系統解析の頑健性を示しており、今後より安価にこの方法が実施できるようになると系統進化学や保全生物学上の問題点の多くが解決できると考えられた。しかし、形態分類学上、同系統となるべき分類群がRADシーケンス法による系統樹で多系統群となるものが1例のみ存在し、この群を巡る追加的な検討が必要となった。日本産種に関しては環境適応進化に種差があり、気候変動に対する反応に違いがある可能性が示唆された。また、共生微生物に関しては、野外のホスト材に複数種の共生酵母を埋め込み、相互作用と雑菌への抵抗性を検討した。その結果、地上材に産卵するルリクワガタの共生酵母が、地表材に産卵するユキグニコルリクワガタの共生酵母にくらべて雑菌の侵入に対する抵抗性が高いことが示唆された。これはルリクワガタの生息環境がTrichoderma属の侵入を受けやすいことにともなうホストとの共進化である可能性がある。 他に韓国各地から採集したチョウセンルリクワガタの遺伝子解析により、分化した個体群が二次的に大規模な遺伝子交流をおこしていることが明らかになった。また、新たに中国産種のサンプルを入手できたため、遺伝子解析に取りかかっている。 その他の森林昆虫の分類群では、ニホンヒメフナムシの隠蔽種と思われる個体群どうしが同所的に存在する地域が発見された。 またこれらの他、オオオサムシ亜属、オオトラフハナムグリ種群、アリガタハネカクシ属、グンバイムシ科等の分化過程に関する論文が投稿中及び投稿準備中となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主たる材料として想定されていたルリクワガタ属に関しては、東アジア各国における分化過程、共生酵母との共進化過程の解明や機能解析、気候変動に伴う動態予測等、多くの新規知見が得られ、当初の目的のかなりの部分が達成された。ただし、RADシーケンス法による結果に、一部想定外のものが含まれていたため、そのフィードバックとして、対象となる分類群の追加的なサンプル採集とそれらの解析が必要となった。また、国外の研究者との協力関係が進展したため、追加的なサンプルが多量に得られ、それらの解析も必要となった。このため作業量が増加して時間を要しているが、解析そのものは継続的に進行している。 その他にも研究の取りまとめ段階に入っている分類群も多い。
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今後の研究の推進方策 |
ルリクワガタ属に関しては、韓国、中国の研究者とも連携を取りつつ、東アジア全体での多様化、共生微生物との共進化に関する解析、今後の進化動態の予測について現在進行中である。また、他の分類群に関しても残された期間内でできる限りの補足的な遺伝子解析、進化動態予測を進めて行く予定である。また、結果の出そろった内容については順次学会等での公表や論文化の作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時の予定から1年遅れてルリクワガタ属のRADシーケンス法による解析を行ったが、その結果に一部想定外のものが含まれていたため、フィードバックとして、対象となる分類群の追加的なサンプル採集とそれらの解析が必要となった。また、国外の研究者との協力関係が進展したため、追加的なサンプルが多量に得られ、それらの解析も必要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
現状で保有するサンプルと今後補足的に採集するサンプルの解析を次年度のできるかぎり早い時期に行い、これまでに得られたデータとともに次年度中に結果の取りまとめを行う。
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