本研究では森林昆虫、特に冷温帯林に生息する昆虫を対象とし、それらの分化・多様化のプロセスを解析し、進化的重要単位の提唱を行う。また、昆虫の共生微生物の分離を試み、共生微生物の温度適応・高温耐性と系統関係を解析し、昆虫との共進化の有無を検討する。さらには、昆虫種の詳細な分布情報、環境データを利用して、多くの種の分布適地を推定し、環境データの操作により、過去の分布状態の再現、将来気候変動が進行した場合の分布予測を行う、等の目的を設定している。 日本産ルリクワガタ属について、全種全亜種を含む62個体の菌嚢から分離された共生酵母の全IGS領域の約2200bpを最終的に確定し、ホストのクワガタの分子系統と比較解析を行うことで、両者の遺伝的分化が地理的距離および互いの系統に依存していること、すなわち不完全ながら共進化をしていることが明らかになった。これらの成果を踏まえ、これらの共生系の最終氷期および現在の生態ニッチモデリングを完了し、将来の気候変動シナリオにもとづいたモデリングを進行中となっている。また、韓国産ルリクワガタ属共生酵母の分子進化に関する論文が公表された。中国産ルリクワガタ属の種のサンプルを多数準備できたため、同様の遺伝子解析を行っている。日本産ルリクワガタ属については、遺伝的分化と種間交雑に関する論文も公表された。 ニホンヒメフナムシ種群、コシビロダンゴムシ属については、関東地方を中心にサンプリングを進め、シーケンスデータを解析中となっている。また、ニホンヒメフナムシのタイプ標本をドイツから取り寄せ、分類学的混乱を収拾すべく、再記載論文を完成させた。 またこれらの他、アリガタハネカクシ属についても分化過程や種間交雑等に関する論文が受理に至っている他、オオオサムシ亜属、オオトラフハナムグリ種群、グンバイムシ科等の分化過程に関する論文が投稿準備中となっている。
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