研究課題/領域番号 |
25292083
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松下 範久 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00282567)
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研究分担者 |
楠本 大 東京大学, 農学生命科学研究科, 講師 (80540608)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 内生菌 / ブナ / モミ / 共生 / 菌類 |
研究実績の概要 |
内生菌は,極めて普遍的な植物の共生者であり,しかも種多様性が非常に高いことが知られている。しかし,樹木内生菌の生態特性や共生機能については不明な点が多い。本研究では,マツ科やブナ科などの樹木の内生菌の生態特性と共生機能を解明することを目的とする。平成27年度の主な成果は,以下の通りである。 ①伝播・繁殖様式の解明:東京大学千葉演習林に生育するモミ5個体について,2014年4月から2ヶ月毎に1年間,当年葉と一年葉から分離された内生菌の菌種を同定した。その結果から,本調査地域(房総半島の暖温帯林)のモミ針葉の内生菌は,葉齢に伴い種数が増加するものの,菌群集の多様度に対する季節や葉齢の影響は少ないことが推測された。また,分離された内生菌(64種)のうち,Muscodor fengyangensis(Mf),Leotiomycetes sp.(L1),Phoma sp.(P1)の3種がモミ針葉に優占していた。これらの3種が内生菌群集に占める割合は季節により変化し,Mfが春から初夏に,L1が夏に,P1が夏~秋に優占し,冬には3種がほぼ同じ割合を占めていた。 ②葉内動態の解明:ブナの葉に優占するAscochyta sp.のマイクロサテライトマーカーの作成を試み,多型性の高い6遺伝子座のマーカーを作成することができた。これらのマーカーを用いて,次年度,ブナ葉内における本種のジェネット分布を調査する予定である。 ③樹体内共生様式の解明:菌類に対する植物の防御機構を誘導することが知られているサリチル酸をモミの枝に塗布し,3ヶ月後に針葉から分離された内生菌の菌種を同定した。その結果から,サリチル酸処理により内生菌の群集構造は変化するものの,葉への感染や葉内での生育に大きな影響を受ける菌種は少ないことが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画のうち,モミに関する研究は,昨年度まで遅れ気味であった菌種の同定をすべて終了することができるなど,おおむね順調に進展している。また,ブナ優占菌のマイクロサテライトマーカーも,予想以上に多型性の高いマーカーを作成することができ,次年度の研究を順調に行うことができそうである。一方,モミ優占菌のマイクロサテライトマーカーの作成も計画していたが,作成できなかった。しかし,ブナ優占菌で試行錯誤してきた手法を用いれば,短期間で作成できると予想されるため,次年度の研究には支障ないと考えている。また,今年度予定していた優占菌種間の対峙培養も行うことができなかったが,この実験も短期間で行うことが可能であるため,次年度,他の調査・実験と並行して行うことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
伝播繁殖様式の解明については,モミと同じ調査地において林床に生育するツバキ科樹木の内生菌の種組成の調査を行い,モミの結果と比較することで,樹種間や高木-低木間での内生菌の伝播・繁殖様式の異同を検討する。また,葉内動態の解明については,ブナ優占菌とモミ優占菌の葉内におけるジェネット分布を調査するとともに,優占菌種間の対峙培養を行い,内生菌種間の相互作用を明らかにする。さらに,次年度は,最終年であるため,これまでの調査結果をまとめて,樹木の葉内生菌の生態特性と共生機能について考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度計画をしていたモミ優占菌のマイクロサテライトマーカーの作成と優占菌種間の対峙培養が行えなかったため,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度行う予定であったモミ優占菌のマイクロサテライトマーカーの作成と優占菌種間の対峙培養に行うために使用する予定である。どちらも次年度の調査・実験と並行して行うことが可能であると考えている。
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