研究課題/領域番号 |
25292088
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉岡 崇仁 京都大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50202396)
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研究分担者 |
舘野 隆之輔 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60390712)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | シカ食害 / 餌選択 / 天然生林 / 草本生態系 / 人工林 / 生物多様性 |
研究実績の概要 |
シカ食害が生じる以前の毎木調査データのある天然生林において、シカ食害が拡大した2014年に改めて毎木調査を実施した。その結果、樹種によって、大幅に個体数を減じたものがある一方、影響の少ない樹種もあった。対象林分で個体数の多かった樹種については、リョウブは、シカ食害が生じて以降に個体数が大きく減少していたが、ネジキなどは減少が見られないかむしろ増加(進界木)した。一方、個体数の少ない植物種についても、ノリウツギなど減少割合の大きい種類が見られた。 土壌窒素栄養塩動態の分析のため、土壌試料を採取し、分析を開始した。スギ人工林の間伐地においては、硝化作用に関わるアンモニア酸化微生物群集(AOM)の定量について予備的調査を実施した。AOM量と環境要因の関係については、まだ十分な情報が得られていないが、間伐やシカ食害の影響を検出できる手法の一つとなるであろう。 草本生態系において、シカ排除柵の設置により植生が回復してきた実験区を夏季の一時期開放し、シカの摂食に曝す実験を行った。植生分布の不均一性が大きい一方で、シカによる摂食量が大きくなかったことから、全バイオマス量や草本種ごとのバイオマス量には明瞭な減少は見いだせなかった。しかしながら、種類によっては、主に葉の部分が摂食されていることが見られたため、葉と茎に分取して乾燥重量を測定した。その結果、いくつかの草本種では、シカ柵開放の前後で葉が選択的に摂食されていることが示された。葉と茎の重量比を指標にしても、葉の選択摂食の様子を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シカ食害の樹木への影響については、従来調査結果の報告は少なかった。本研究により、芦生研究林において食害が始まる以前に設定されていた天然生林実験区において、シカ食害後の毎木調査を実施した結果、シカ食害による樹木への影響の一端を把握することができた。樹木に対するシカ食害の影響を詳細に分析するための情報はほぼ得られたと考えられる。また、草本生態系におけるシカ食害については、種ごとの食害影響を把握するための実験を行った。自動カメラによるシカの訪問数の推定は不十分であったが、草本に対するシカの選好(選択性)を検出することができた。以上のことから、最終年度に向けた準備やデータの取得など、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
天然生林における樹木への食害影響については、得られたデータを詳細に解析する。樹木個体数の変化だけではなく、直径成長についても検討する。新たに設置した、北海道研究林のシカ柵実験地においても、調査を継続し、多角的に情報集積を図ることにした。草本生態系におけるシカ柵開放実験については、得られた情報の解析に加えて、新たにフィールド実験を企画・実施して、より詳細に解析をする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度に研究補助員の雇用ができなかったことから、繰り越しが生じた。2年目の今年度には、博士研究員を研究支援員として雇用することで、現場観測ならびにデータ解析を推進することができた。本研究企画時よりも大幅に雇用時間を増やすことで研究推進を十分図ることができたが、初年度に積み残した金額と今年度の助成金額を使い切ることができなかった。そのため、昨年度に比して額は縮小しているものの、次年度使用額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
研究最終年度に当たる次年度においても、研究支援員を雇用することで、調査、解析を推進する予定である。芦生研究林だけではなく、北海道研究林にも試験地を設けたことから、解析するデータの量が増大しており、データ解析を得意とする研究員を引き続き雇用し、助成金を有効活用する予定である。
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